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「こんなことになるとは思っていなかった」

 大阪拘置所で井上嘉浩(享年48)の死刑が執行されたのは午前8時ごろのことだったという。拘置所で同じ階に収容されていた未決囚が、刑場へ向かう井上を見てこう書いている。

「前を通り過ぎようとした時、目が合った。泰然自若。動揺することなく、至極立派な態度で去っていった」

 井上は1審で無期懲役判決を受けながら、控訴審で死刑となり、最終的に死刑が確定した。

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 執行直前、刑務官からこう言われた。

「お父さん、お母さんに何か伝えることは」

 すると井上はこう語ったという。

「お父さん、お母さん、ありがとうございました。こんなことになるとは思っていなかった」

 そして、自らに言い聞かせるようにこう言った。

「まずは、よし!」

 井上は「厳粛な面持ち」で死刑台に立ったことが、両親に伝えられた。

 大阪拘置所で井上の次に執行された新實智光(享年54)は、もともと麻原に対する帰依が強く、最後まで信仰を捨てない信者と思われていた。

法務大臣が執行にサインした日の夜に見た夢

 しかし、元アレフ信者で2012年に新實と獄中結婚し、現在は教団と関係を絶っている夫人が、前出の『週刊新潮』に寄せた手記によると、晩年の新實は「教祖にはついていかない」「来世は弟子になることはないだろう」と麻原を完全に否定し、また迫る死の恐怖と戦っていたという。執行の8日前には恩赦を出願すべく「生きて償いたき所存です」と記述していた。

©iStock.com

「3月に移送があり、弁護士さんからも“今年、執行がある”と言われていたんです。それが影響したのでしょうか、大阪に来てからは、夫は面会の際に“自分は死ぬんじゃないか”と言うことがありました。その度に“ないわないわ”と言って安心してもらおうとしましたが……。“胃が痛い”と言い出すこともあったんですが、検査を受けても異常は出ません。東京にいた時は一度もなかったことでしたね。死刑が執行される2日前に面会に行った時、突然、夫はその前の晩に見たという、夢の話を始めたんです。“独房の前にネズミの大群がやってきて怖かった”と。追い詰められているな、と思いました。後になってみれば、夢を見たのは法務大臣が執行にサインした日の夜だったんです」(『週刊新潮』2019年7月1日号)

 執行の日に出す予定だった、新實の妻にあてた手紙には「これからもよろしく」と書かれていたという。