2008年に起きた江東区マンション女性バラバラ殺人事件。2009年1月に開かれた公判では、同年5月から開始される「裁判員制度」を見据え、「目で見てわかりやすい審理」が行われた。これまでにない立証は、法廷をどんどんと異様なものへと変えていった。
公判廷の傍聴席にいたジャーナリスト・青沼陽一郎氏の著書『私が見た21の死刑判決』(文春新書)から一部を抜粋して紹介する。(全2回中の1回目。後編を読む)
◆◆◆
「これは捜索で見つかった肉片の一部です」
東京地方裁判所の第104号法廷といえば、オウム真理教の教祖・麻原彰晃や、ライブドア事件の堀江貴文被告などの裁判の舞台ともなった、傍聴席数136を数える大規模法廷である。ほとんどの死刑判決もここで言い渡されてきた。
2009年5月からはじまった裁判員制度を前に、この大法廷も改装が済み、裁判官と裁判員合わせて9人が並んで座れる大きな法壇と、証言台、それに検察、弁護双方の席には証拠を閲覧できるモニターが、そして、同じ画像を傍聴人も一斉に閲覧できるように、左右双方の壁には畳一帖はあろうかという65インチの巨大液晶画面が向かい合うように掲げられている。
この画面いっぱいに、傍聴していた司法記者の言葉を借りれば「腐ったハンペンのようなもの」が映し出されたのは、同年1月13日の公判でのことだった。画像の下にはメジャーが置かれ、大きさが5cm大であることがわかる。続けて検察官がこう説明しなければ、これがいったいなんなのか、判然としなかったに違いない。
「これは捜索で見つかった肉片の一部です。真ん中のくぼんだところは、お臍です。臍の上には、被害者が生前に開けていたという、ピアスの穴と一致します……」
そういうピアスの穴には、ストローのような棒を通して、穴の位置を確認している。DNAの型が被害者のものと一致したことも告知する。そして画像が切り替わる。
「これは、指の一部です」