2008年に起きた江東区マンション女性バラバラ殺人事件。2009年1月に開かれた公判では、同年5月から開始される「裁判員制度」を見据え、「目で見てわかりやすい審理」が行われた。しかし、これまでにない立証は、法廷をどんどんと異様なものへと変えていった。
法廷で傍聴していたジャーナリスト・青沼陽一郎氏は、その当時の異様さを次のように語っている。著書『私が見た21の死刑判決』(文春新書)から一部を抜粋して紹介する。(全2回中の2回目。前編を読む)
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次々に退廷する遺族と唐突に叫んだ被告人
その瞬間だった。傍聴席の前から3列目に座って、身体を震わせていた遺族の女性が、ひじ掛けからガクン、と腕が外れるように崩れ落ちる。隣の男性がこれを支え、裁判所の職員もそこに駆け寄る。そのまま女性は法廷の外に出る。
すると、もう一人。今度は最前列に座っていた女性が、前に大きくうなだれていった。隣の男性に促され立ち上がると、やはり駆け付けた裁判所の職員といっしょに退廷する。
直後に扉の向こうから絶叫するような女性の泣き声が聴こえ、法廷中に響き渡った。法廷内にも、耐えかねたすすり泣きが聞こえる。
胸が詰まるような雰囲気の中で、検察官の尋問が進む。
──切り口から、血が出ることはありましたか。
「ありました」
──流れた血はどうなりましたか。
「そのまま排水溝の中へ……」
そのあたりで、速記の都合で尋問が一時中断する。異様な空気の中で、沈黙が一瞬支配する。すると、まるで別世界に心があるように、星島が唐突に叫んだ。
「絶対、死刑だと思います!」
驚いたのは検察官だった。一瞬たじろぐも、すぐさまきつい口調で、
「質問されてないことに、答えなくていい!」と一喝するのだった。
やがて、両脚、両腕を胴体から切り離し、そこからさらに肉を剥ぎ、俎板の上でこまかくしながらトイレに流していく様を、証言と画像で具体的に再現していく。
さすがに、こうした尋問が3日も続くと、被告人の様子に異変もでてくる。残った胴体から肉を剥ぎ、内臓を取り出し、あばらを切り離し、切り刻んでいく過程を、下を向いたまま、傍聴席にもほとんど聞き取れない声で、機械的に答えていく被告人を見かねて、弁護人が異議を唱えた。