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「それとも、おまえ包茎か」

 海軍の定期検査でのM検を経験したある男性は、彼の包茎を見て大笑いしただけでなく、周囲に聞こえるようにわざと「ホーケー」と声を張り上げた医師の様子を書きとめている(*12)

*12 内田、1957、93頁

 やはり海軍で青年期を過ごした作家の笹岡作治は、海兵団入隊時のM検で、青年が無理やり勃起させられる風景を描いている。

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『次!』一歩前進。姓名申告。『声が小さい』そしてやりなおし。ありったけの声をふりしぼる。『何だ、何だ、おまえのはしなびてるじゃないか。日本男子なら、しっかり立てろ。ほれ、ほれ』片手で睾丸を軽くゆすりながら、薄皮をさする。若者は真赤になる。

『まだ、まだ、駄目だ。おチンチンのさきが出てこんぞ。それとも、おまえ包茎か』後続の若者たちのなかには、そっとペニスにふれるものもある(*13)

*13 笹岡、1973→2004、197~198頁

 強制的に勃起させられるのは、亀頭を出すためである。亀頭が出てこないと「おまえ包茎か」となじられる。人権もなにもあったものではない。

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 海軍の定期検査では即席の「包茎手術」がおこなわれることもあった。二人がかりで強引にめくられるのである。海軍では亀頭が出ることを「日の丸があがった」といっていた(*14)。徴兵検査でも、その場で無理に剝かれることがあった(*15)

*14 笹岡、1973→2004、199~200頁
*15 水野、1982、157頁

 本物の包茎手術が軍隊でおこなわれる時は、麻酔が使われない場合があったようだ。若い兵士が、痛みに耐えかねて悲鳴を上げていたという(*16)

*16 笹岡、1973→2004、202頁。さすがにすべての現場、すべての手術で麻酔が使われなかったとは考えにくいが、こういうケースがあったであろうことは想像できる。

凌辱からの解放

 兵士に接することが多かったある医師は、手術前の患者の裸体から立ちのぼる「卑屈的な男らしからざる羞恥心」が、手術後にすっかり解消される現象について書きとめている(*17)。それはそうだろう、という気がする。凌辱から解放される安心感が、患者の雰囲気を変えたのだ。

*17 高山、1942、126頁

 人前で「ホーケー」と叫んだり、「おまえ包茎か」といわれたりすることが凌辱になるのは、タテマエとは違って包茎が「恥づべき病気」であったからにほかならない。年上の男たちはそのことを知ったうえで、若者のペニスをいたぶり、彼らを精神的に支配したのだった。

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