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「最近の男は間違った思い込みを持ってるから」土井善晴が“前世代的な考え方”を一刀両断する理由

岡村靖幸 幸福への道

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料理人の料理と、家庭料理は全然違う

土井 実はね、和食いうのは簡単なんです。いちばん簡単で手がかからないもの。本当にそうなんです。それが味付けに気が行き過ぎるから手間がかかる。うどなんて、それは料理人の基本の調理方法で、料理人がやることがすべて正しいと思ってる人が書いたものでしょう。だけどね、料理人の料理と家庭料理は全然違うんです。家庭で誰がそんなんやってんの(笑)。

 酢水は何のためかというと白くするため。料理人にとっては白いいうことに価値があるんです。お客さんに出すための料理だから。なのに、私らが家で食べるだけのものがなんで白くないとあかんの。そのままのほうがおいしいし、白くなくてもきれいによそえば美しくなります。

 だから、私なんか大根おろしは皮のまんま。そしたら、「剥かないんですか」って聞かれますから「なんで?」って必ず言います。「なんで皮剥くのかわかんのやったら皮剥け」って(笑)。

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岡村 ショウガもですか?

土井 剥かないほうが絶対おいしい。おろすときも、カレーに入れるときも、皮なんて関係ない。

岡村 確かにその通りかも。

 

土井 ある女性の話やけど、結婚したばかりの夫にほうれん草のおひたしを作ったら、「これ、おひたしじゃないやろ。おひたしいうのは、だしに浸すから『おひだし』いうんだ」と言ったらしく、もう一生この男に料理せんとこうと思ったと(笑)。

 「おひたし」いうのは、もともとほうれん草をただ湯がいただけのもの。でも、料理人はただ湯がいただけのものをお客さんに出せへんからだしに漬けて、ほうれん草にだしを染み込ませるんです。そうするとほうれん草がおいしんじゃなく、だしがおいしいとなるわけ。

 茹でたてのほうれん草がどんだけおいしいか。そういうことを知らんでもうね、最近の男の人は料理雑誌やらなんやらで、相当間違った思い込みをいっぱい持ってるから(笑)。

岡村 ははははは(笑)。

料理研究家の家庭の食事

岡村 土井さんは、ご両親がともに料理研究家(父は故土井勝、母は故土井信子)という家庭で育って。子どもの頃はどう思ってらっしゃいましたか、料理に対して。

土井 それは楽しみですよ、無条件に。子どものときは日が暮れるまで外で遊んで、晩ご飯になるとお腹をすかして、もうこんなに幸せなことはないと。だから、家で勉強するいうこと知らなかった。「勉強しなさい」って一回も言われたことがないんです(笑)。

岡村 じゃあ、今日は何が食べられるかなというのが楽しみに?

土井 基本的に和食ですから選択肢はないんです。ある日ローストチキンがテーブルにのっていたとか、生まれて初めてエビフライをいつ食べたとか、ビフテキをいつ食べたとか、けっこう覚えてますよ、その瞬間を。それぐらいに何もなかったから印象に残ってて。