自身の鍵付きツイッターアカウントで、女性蔑視発言や、誹謗中傷を繰り返していた人気歴史学者・呉座勇一氏(国際日本文化研究センター助教)。誹謗中傷の主たるターゲットのうちの一人は北村紗衣氏(武蔵大学准教授)で、以下のようなツイートが投稿されていた。

<さえぼう(注:北村紗衣氏のツイッターアカウント名)の権利主張こそ「私はこんなにすごい研究者なのに女だから正当に評価されない!」というのが根底にあって、エリートとしての義務を果たそうとしているところを見たことがない>

<ぶっちゃけ、さえぼうは「自分は凄いのに(女性だから女性差別の日本社会では?)正当に評価されていない」と言いたいだけだよな。ポスドクが言うならわかるんだが、もう後進を指導していく立場なんだから、社会問題にみせかけた自分語りはそろそろやめたらどうなのか>(原文ママ)

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 北村氏による「ツイートのスクショ公開」が、この一連のハラスメント行為を暴くきっかけとなり、呉座氏の謝罪で幕を引いたかに見えるこの騒動、しかし実際には第三者による北村氏への新たな加害が続いている。

 呉座氏とその周辺の人々が「フェミ」と嘲笑し愚弄した女性研究者は、今どんな思いで日々を過ごしているのか。ジェンダー関連の炎上が繰り返されるその理由とは。当事者である北村紗衣氏に聞いた。(前後編の前編/後編を読む) 

北村紗衣氏(背景画像はウィキメディア・コモンズより)

◆ ◆ ◆

――大変な状況の中、取材を受けていただき本当にありがとうございます。北村先生の、今の率直なお気持ちを教えてください。 

北村 そうですね……最初は本当になぜこんなことが起こったのかよくわからなくて。外を歩いてたら急に車に轢かれたという感じです。さらに今は「二次加害」がすごくて、デマみたいなものを流されたりとか。どんどんわけがわからなくなってきたなというのが率直な感想です。 

――そもそものハラスメントが明らかになった経緯を教えてください。 

北村 それがすごく不思議で……最初は一応名前がわかる人からスクリーンショットが送られてきたんですけど、その後はてなブックマークとか、写真のシェアサイトを介して、どんどん匿名で悪口スクリーンショットがシェアされてくるようになったんです。 

――堰を切ったように。 

北村 そう。「見るに見かねて」という方もいれば、「大河ドラマが心配だった」という方もいました。これが大河の最中にバレたらえらいことになると。 

――なるほど。では北村先生はどんどん誹謗中傷の中身を知ることになった。 

北村 なんか、ちょっとずつ悪くなっていくんです。内容がひどいものが1枚ずつ増えていく、みたいな感じでした。 

止まらない「二次加害」

――今回の件を機に、ツイッターで北村先生にさらなる攻撃をする「二次加害」が止まりませんが、こういうことは今までのご経験でもあったことですか。 

北村 変なデマや言いがかりをしてくる人はいましたが、今回が一番ひどいと思いますね。規模も、数も。今までも私の発言をコンテクストから切り離して切り貼りして、わざと曲解するようなデマを流す人が多かったんですけど、今回はそれがさらに悪化している気がしています。 

――被害者が、さらなる被害にさらされてしまう現状はとてもやるせなく腹立たしいことですが、でも北村先生はそういったツイートにも1つ1つリアクションしていますよね。 

北村 なんでしょうね、やっぱり教育ですかね。普段から教育をしているので、知らない人には教えなくちゃいけないというのが強迫的にあるんだと思います。 

 ただ、私に何かを言ってきて、返事された相手が何かを学ぶことはほとんどないんですよ。どちらかといえばそれらのやり取りを見てる人が何か学ぶことの方が多いと思います。