――もしそんな悪魔がやってきたら契約しちゃいますか?
北村 たぶん私はすると思いますし、みんなするんじゃないかと思うんですけど(笑)。だから『フォースタス博士』みたいなお芝居が今でも上演されるんだと思います。
――Twitterにもそんな側面がありそうですね。世界の全てを知ってるという錯覚に陥いる。
北村 そうですね……。ただ、研究者だと、知らないことを作り出すことが必要になるんです。他の人が考えてない「問い」を見つけられると独創性が高いと言われる。みんなが知らなくて、知りたいと思っていることではなく、誰も今まで知りたいと気付いていなかったことを掘り出さないといけない。
だからそこはちょっと違うのかなと、今は思っています。「自分は全部わかってる」と思ってしまうと、ちょっとそういう問いは立てづらくなっていくので。
ジェンダー関係の炎上、なぜ増えている?
――北村先生へのあの誹謗中傷、さらに今現在起きている二次加害をはじめ、ここ最近ジェンダー関係の炎上が非常に増えている気がしています。
北村 ひょっとすると新型コロナも関係あるのかもしれないですね。おうちにこもって健康に気をつけないといけなくなった。ライフスタイル自体を変えないと、長い感染症と付き合えないという意識がみんな少しずつ芽生えてきた。もっとこういうところを改善しなくちゃいけないとか、こういうことを言わないといけないとか、みんな今までより考えるようになったんじゃないかなという気もしています。
――そういうことは「言わない」ことが正しい、頑張って何かを変えようとする人たちを、冷ややかな目で見ることこそが公平な態度だという風潮は、かつて確かにあった気がします。その空気が徐々に変わってきて、そこにあの森喜朗発言。
北村 本当は首相時代からあれだけ失言をした人が、またそういう立場に戻ってきてること自体が問題なのかもしれないんですけど。でもそういうことをちょっとみんな考えるようになったのかもしれないですよね。
――報道ステーションのCMもそうじゃないでしょうか。ジェンダーの問題に対して、誠実に向き合わない広告がすぐさま炎上するという流れがあるのにまたああいうCMを作ってしまう。なぜ繰り返すのかという素朴な疑問があります。
北村 しかもあれって1回見ただけでは何を言っているのかよくわからない。何回か見ないとよくわからないって、CMとしては決定的にダメだと思うんですよね。ひょっとすると人件費がちゃんと払われてないとか、色んなものを急いで作らせるような労働環境の悪さという話なのかもしれない。