自身の鍵付きツイッターアカウントで、女性蔑視発言や、誹謗中傷を繰り返していた人気歴史学者・呉座勇一氏(国際日本文化研究センター助教)。誹謗中傷の主たるターゲットであった北村紗衣氏(武蔵大学准教授)による「ツイートのスクショ公開」が、この一連のハラスメント行為を暴くきっかけとなった。
呉座氏の謝罪で幕を引いたかに見えるこの騒動、しかし実際には第三者による北村氏への新たな加害が続いている。呉座氏とその周辺の人々が「フェミ」と嘲笑し愚弄した女性研究者は、今どんな思いで日々を過ごしているのか。当事者である北村紗衣氏に聞いた。(前後編の後編/前編を読む)
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自分を責める気持ちがどんどん湧いてきてしまう
――北村先生の活動がツイッターで注目される理由のひとつに、寄せられるリプライに淡々と反論するスタイルがあると思います。「わきまえろ」の圧力を日々感じている人にとっては、あぁこういうやり方があるんだとすごく勇気を感じるのではないでしょうか。
北村 元から全然わきまえてない人は、自分がわきまえてないことも気づいてないんですよね。なんでしょう、革命家になるような人って、全然自分が革命を起こしていることに気付いてないって話ありますけど。私あんまりそういうのに気づかずに暮らしてきたので、ちょっとよくわからないところがあります。
たぶんそうでないと、いきなりスクショ公開して怒ったりしないですよ。
――逆に、フェミニズムにあまりいいイメージを持っていない人には腹立たしくてしょうがないものに映るのかもしれない、とも。北村先生もツイッターで吐露されていましたが、被害にあった側なのにどんどん新たな加害にさらされると、もしかして自分が何か悪かったのかと、そういう気持ちになってしまいますよね。
北村 私、今までそういった二次加害の事例に関する本もたくさん読んできたはずなのに、実際に自分の身に起こると、やってもいないことに関して悪いことをしたんじゃないだろうかとか、自分は取るに足らない人間なのではないだろうかとか、そういうネガティブなことばかり思い浮かんできます。やはりいくら本を読んで学んでいても、そうなるんだなぁと。
――フェミニストの立場で発言をするアカウントは、現状心無い攻撃にさらされていますね。
北村 そうですね。どなたもほんとにひどいことを言われますね。かつてゾーイ・クインという、ゲーマーゲート事件(*1)で最初に攻撃された女性のゲームデザイナーがおりまして、この方が自伝を書いているんですよ。
*1……2014年に起きたクインに対するオンライン上の誹謗中傷や脅迫を発端に、オンライン上で女性ゲーム関係者に対するハラスメントが過熱した事件のこと。
命の危険を感じるような電話やメールがきたり、住所を特定されたり、「どう考えてもこれは攻撃する方が悪いに決まってる」というようなことがクインに起こるんです。そういうことが起こると、本人は何も悪いことをしていなくても「自分に何か非があったのでは」という気持ちになってきてしまう。身の危険を感じると、そうなってしまうんです。