文春オンライン
“ハミチン事件”を経てなお「竹中直人にやりすぎはない」 65歳を迎えた個性派が抱える“安定への不安”

“ハミチン事件”を経てなお「竹中直人にやりすぎはない」 65歳を迎えた個性派が抱える“安定への不安”

3月20日は竹中直人65歳の誕生日

2021/03/20
note

 俳優で映画監督としても活躍する竹中直人は、きょう3月20日、65歳の誕生日を迎えた。現在放送中のNHKの大河ドラマ『青天を衝け』では水戸藩主・徳川斉昭に扮し、本物の斉昭の肖像とそっくりだともっぱらの評判だ。

 劇中の斉昭は、草彅剛演じる息子の慶喜に愛情をかける一方で、幕府に対して強く攘夷を訴えるなど激しさを持ち合わせた人物として描かれる。竹中が極度の照れ屋でありながら一度役にのめり込むと止まらないことを思えば、まさに適役といえる。

大河ドラマで徳川斉昭を演じる竹中直人 ©文藝春秋

 竹中は大河ドラマではこれまでに『秀吉』(1996年)と『軍師官兵衛』(2014年)に出演している。役はいずれも豊臣秀吉であった。

ADVERTISEMENT

コメディリリーフの俳優が大河の主演に抜擢!

 竹中が『秀吉』の主演に抜擢されたとき、世間は驚きをもって受け止めた。それというのも、彼は劇団青年座の出身(この前年の大河『八代将軍吉宗』で主演した西田敏行の後輩にあたる)ながら、テレビにはお笑い番組でモノマネなどを披露してデビューし、俳優の仕事が増えてからもコメディリリーフ的な役が多かったからだ。

 ただ、本人のなかでは、ちょうど大河の主役をしたいと思っていたところだった。その背景には、ある不安感があったという。このころには、それなりに俳優として個性を認められ、どんな作品に出演しても、すぐOKが出て撮影が進んでいく。それがとても怖くて、このままでいいのか、もっと責任のある仕事をしなければいけないのではないかと自問自答した。では、責任のある仕事とは何かと考え、たとえば1年間ひとつの役をやるのはどうかと、思い浮かんだのが大河ドラマの主役であった(※1)。

実際の徳川斉昭の肖像画とも似ている…? 左:『青天を衝け』公式HPより 右:徳川ミュージアム公式HPより

 『秀吉』のオファーがあったのは、何とそれから数日後のことだったという。竹中は思ったことが本当になり、衝撃を受けながらも出演を決める。ディレクターとの最初の打ち合わせでは「ものすごいハイテンションで、ボロボロの男にしたいです」と伝えた。そこには秀吉というヒーロー像を壊してめちゃくちゃにしたいとの思いがあった。放送当時のインタビューで彼は次のように説明している。

《ヒーローだって汚いところはあるのに、いざ描くときになるとみんな恥になるからといって隠しちゃってるでしょう。そうじゃなくて、ヒーローだってみっともない男、汚い男なんだっていうのをやりたかった。ふんどし一丁で走り回って、唾をペッペッと飛ばして、とにかくうるさい、何だこいつはって思われるような、そんなぶざまな男にできたらどんなにいいだろうと思ってましたね》(※2)