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 前出の発言は、7作目の映画『R-18文学賞vol.1 自縄自縛の私』(2013年)を撮ったときのものだが、同作で彼は、『無能の人』(1991年)で監督デビューして以来初めて画面には姿を出さず、演出に専念した。《長年いろいろと映画の仕事をやっていくうちに、いつしか役者の芝居を見守っていたいという気持ちが強くなってきた》というのがその理由である(※7)。

映画『R-18文学賞vol.1 自縄自縛の私』主演の平田薫とともに ©文藝春秋

 この4月には、竹中が企画し、同じく俳優の山田孝之(プロデューサーを兼務)と齊藤工と共同で監督を務めた『ゾッキ』の全国公開を控える。今回は出演者だけでなく、親子ほど年が下の2人の監督をも見守るという思いで現場にのぞんだのではないだろうか。

『ゾッキ』は60代になって初めての作品でもある。前出のインタビューでは、60歳くらいになったら、内田百閒の小説『ノラや』を映画化して、自分で百閒を演じたいとも語っていた。もともと、お笑いでデビューした頃には、松本清張や遠藤周作など作家の形態模写を持ちネタとしていただけに、彼の演じる百閒がどんなものになるのか気になるところだ。

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音楽、文筆と幅広く活躍する「あの俳優」との共通項

 竹中には俳優、監督だけでなく、レコードやCDをリリースするなどミュージシャンとしての一面もある。ただし彼は、肩書という感覚が自分ではわからないと、こんなことも口にしていた。

《自分のなかでは共通しているんです。たとえば歌もひとつの音で、せりふも音だし、リズムだし。舞台でも映画でも、演じることのリズムとか編集のリズム、音楽もリズム。ぜんぶ共通してるんですよね。歌手と役者が別物だとは思わない》(※8)

星野源はオールマイティさで竹中直人と似ている? ©文藝春秋

 この感覚は、彼と同じく俳優以外にもやはり音楽や文筆など幅広く活躍する星野源などにも共通するものかもしれない。

※1 竹中直人『役者は下手なほうがいい』(NHK出版新書、2016年)
※2 『日経ビジネス』1996年8月5・12日号
※3 『週刊ポスト』2021年2月26・3月5日号
※4 『キネマ旬報』2009年8月下旬号
※5 『新潮45』2013年2月号
※6 『週刊朝日』2018年4月6日号
※7 『キネマ旬報』2013年2月上旬号
※8 『東京人』1999年1月号