かろうじて中流を維持する日本人
さて、コロナでIT関連や製薬関連など一部の業種以外では、移動制限や、人が街に出ないことによる消費の低迷、工場の操業停止などにより、企業は大きな打撃を受けました。
しかし、日本ではもう長いあいだ「デフレ」という経済状況が続いています。バブルが崩壊した後、日本の経済はずっと停滞していました。企業活動が活発でなく、賃金が上がらないので、みんなものを買わずにお金を貯めていて、消費活動も停滞するのです。つまり世の中にお金が出回らなくなっている状況です。そうすると、ますます世の中の景気が悪くなり、ものの値段は上がらず、企業活動は活発でなくなり、賃金が上がらず、消費も冷え込んだままです。こういう状況がずっと続いているのです。企業活動が活発になるためには、大きな設備をつくったり、新しい商品を開発したりするために、企業がたくさんお金を使わなければなりませんが、そのためにはお金が必要です。それで、企業が安い金利でお金を借りられるように、日本銀行は企業に貸すお金の金利を安くしていきました。どんどん金利を安くして、「ゼロ金利」になり、あげくのはてに、それまでの経済の常識では考えられなかった「マイナス金利」にまで下がりました。それでもデフレ状況は続いています。その意味でも今は以前のような経済の常識が通用しない激動の時代、予測のつかない時代なのです。
ものの値段が上がっていない、ものの値段が下がったということは身近なデータからも明らかです。私が外務省に入ったとき、1985年に、職員食堂の定食は630円でした。ところが、ロシアに駐在して帰国した1995年には580円になっていたのです。今教えている同志社大学の食堂では500円で定食を食べることができます。
「一億総中流」はもはや幻想
バブル前には、イタリア料理を食べられる安価な店はほとんどありませんでした。それが、サイゼリヤのようなファミリーレストランやチェーン店で、安価なワインを飲んだり、チーズを食べたりできるようになりました。ワインブームで安価なワインを誰でも口にできるようになり、一般的なスーパーではプロセスチーズくらいしか売られていませんでしたが、今ではスーパーでもカビのついたチーズなどさまざまな種類のチーズをそろえるようになりました。食だけでなく、衣料も安くなりました。衣料品チェーンのユニクロでは機能性の高い、品質のよい、安価な衣服が大量に売られています。バブルを経て、なんでも手に入るようになり、しかもそれが低価格で提供されるようになったのです。
東村アキコが2014年から2017年にかけて発表した漫画『東京タラレバ娘』だと原作でもTVドラマでも、女子会で、一人3000円くらいの予算で飲み食いしている様子が描かれていましたが、2019年から始まった新シリーズ『東京タラレバ娘 シーズン2』の主人公・廣田令菜は、親と同居していて、買い物はコンビニで済ませ、家ではNetflixを見るだけで十分満足しています。ますますお金を使わなくなっている社会状況が描写されています。