1894年、明治時代のとある夏の日、日本を代表する思想家・内村鑑三が当時の若者を集めて講演を行った。後に『後世への最大遺物』というタイトルで本としてまとめられたこの講演は、今も読みつがれ、星野佳路氏(星野リゾート代表)やアフガニスタンで人道支援を続けていた故・中村哲医師ら多くの人に影響を与えている。
内村がこの講演で語ったのは、「死ぬときに何をのこすべきか」ということ。ここでは、100年以上前の名著を現代語に読みやすくし、佐藤優氏が解説を加えた新刊『人生、何を成したかよりどう生きるか』(文響社)を引用。語り継がれる“学び”について紹介する。
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リモートワークできる人、できない人の格差
コロナで密を避けることが喫緊の課題になりました。満員電車や都市部の企業が密集しているエリアに人が集まらないように、リモートワークが可能な職種では、在宅業務が奨励されました。富裕層の一部は都市部を離れ、人が密集せず、外に出ても安心、安全な別荘地で仕事をした例も多かったようです。有名なスタートアップ企業の経営者たちが、軽井沢で仕事をしているとか、沖縄で仕事をしている、などとツイートしたり、フェイスブックにリモートワークの様子をアップしたりしていました。
コロナが一旦落ち着いた状況になっても、リモートワークが主になって、人が密集している地域に住む必要がないから、都市部の狭いアパートやマンションに住んでいた人が郊外の広い部屋や家に引っ越すという動きもあるようです。
ここで格差が生じます。感染を避けるためには、密を避ける必要があったとしても、どうしても人に会わなければならない人、医療や介護の関係者、工場に勤務している人、一部の接客業など、リモートワークでは仕事にならない人もいます。人が密集している狭い集合住宅では感染リスクが高かったとしても、住環境を簡単に変えられる人ばかりでありません。都市部や勤務先から離れて、都市部より広い家に住めるのはさまざまな制約のない、特権的な人だけなのです。
実は軽井沢や箱根という別荘地は、第二次世界大戦のときに、それぞれ、中立国の大使館や公使館が避難していた土地でした(軽井沢はスイス、スウェーデンなど、箱根はソ連)。このため、この二箇所には、絶対に爆撃が行われないことになっていました。それで、別荘地として、ほかの別荘地よりも多くの富裕層やエリート層が集まり、土地の価格も、土地の「格」もほかの別荘地よりも高くなっています。別荘地にも、エリートや富裕層が集まる格の高い土地と、そうでない土地との「格差」があることになります。今、コロナでまた、経営者層や富裕層がこうした別荘地に集まり始めているという動きは、その格差が地理的に可視化されているのです。
ところで、コロナの感染拡大でパリでは2020年10月末時点で、2度目のロックダウン(都市封鎖)を実施していますが、1度目のロックダウンの最中、歴史人口学者のエマニュエル・トッドが朝日新聞のインタビュー(朝日新聞デジタル2020年5月23日)に答えたときに、自分も今早々とリスクを避けてパリを離れ、パリの郊外の別荘地で執筆している、これは特権的なことである、と自覚的に自分の置かれた環境について語っていたのが印象的でした。