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 これはノブレス・オブリージュという、西洋で、貴族は高い地位に応じて果たさなければならない社会的な責務があるという考え方に通じるものでもあるでしょう。格差社会、コロナなど、苦しい時代に、ヒットしている漫画にこのようなセリフが含まれていることは、社会的な強者や高い地位にある人にはそうあってほしいという人々の願望を表しているようでもあります。

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まっとうに生きるということ自体の価値

 内村はカルバン派などプロテスタントの流れを汲むキリスト教徒でしたが、『後世への最大遺物』のすぐれているところは、神を信じなさいとも、神を信じれば救われる、とも直接的には書いていない点です。ましてやキリスト教を信じなければ地獄に落ちると言っていません。それは、もともとこの本がキリスト教徒の若者を対象に書かれているため、わざわざキリスト教を信じなさいという必要がなかったということもあるでしょう。しかし、内村は、成功しない方に振り分けられた、と自分で思い込んでいる人や、格差社会で閉塞感を感じている人や、自分の能力を活かせないと思っている人、どうやって生きていったらいいのかわからないという人にも、いや、そういう人にこそ届くような言葉で語りかけています。お金をもうけ、事業、思想を残す、本を書く、教育者になる、そして、それらを試してかりにうまくいかなくても、生き方がまっとうならば救われるということを書いています。生きることは難しいことですが、なんとかなると思って生きればまっとうに生きるということ自体が価値になるのです。

人生、何を成したかよりどう生きるか

内村鑑三 ,解説 佐藤優

文響社

2021年2月18日 発売