お金のことは「産んだあとで考えましょう」
経済的な問題が女性を孤立出産に追い込む要因のひとつになっていると真琴さんは感じていた。
「8、9割の方が保険証を持たない、国民健康保険の保険料を滞納して使えないなどの問題でお困りです。お金のことはどうにかなるから、産んだあとで一緒に考えましょうとお話しします」
実際に、搬送先の病院の精神保健福祉士や社会福祉士が地域の保健師と連携して、生活を立て直す支援ができたこともあるという。
赤ちゃんを育てられないという悩みには?
つい最近は、こんなケースがあった。
東北地方に暮らす20代のその人は、昨年4月の生理を最後に、妊娠を誰にも打ち明けられず、隠して仕事をしていた。孤立出産の不安と生まれてくる赤ちゃんを育てられないという悩みを抱え、慈恵病院の電話相談にかけてきたのは今年1月。
慈恵病院では特別養子縁組の活動も行っているが、女性はすでに長距離の移動ができない週数に入っていて、慈恵病院で出産して赤ちゃんを養親に託すことは難しい。そこで真琴さんは女性を北関東の特別養子縁組のあっせんを行うNPO につないだ。NPOが女性のお産を引き受ける病院を探し、受診に同行。2月、女性は無事に帝王切開で出産した。保険証の再発行は出産には間に合わなかったが、NPOが行政の担当者に相談し、後日、算段がついた。それにより入院費を保険で精算できる目処が立った。特別養子縁組の手続きを進める予定だ。
「この方のように出産までに時間の猶予のある方は、その方の暮らす地域の民間相談窓口や母子保健センター、あるいは特別養子縁組のあっせん団体におつなぎするなどして、病院で安全に産んでいただけるようお手伝いします。特別養子縁組のあっせん団体がお手伝いしたからといって絶対に養子に出さなくてはならないわけではありません。赤ちゃんを産んでから、やっぱり自分で育てたいと思い直す方もいます。お母さんの希望はもちろん受け入れられます」
慈恵病院の「こうのとりのゆりかご」に対しては、孤立出産を誘発しているのではないかとの意見が根強くある。匿名で赤ちゃんを預け入れることができるためだ。保護責任者遺棄罪に問われないのはおかしいという批判だ。
反対の立場をとる人は、ゆりかごには赤ちゃんが将来自分の出自を知る権利が担保されておらず、子どもの権利を侵害していると指摘する。当初は匿名性を最優先していた慈恵病院だが、熊本市からの強い要請により、預け入れた親に声をかけるよう関わり方を変えた。親との接触を重ねた結果、例えば2019年には預け入れられた11人のうち、10人が孤立出産だったことがわかっている。