一緒に責任を負うべき男性の問題を棚上げ
だが、孤立出産は一般に思われている以上に多いのだと蓮田さんは話す。
「全国的に見れば、産婦人科で受診せずに自宅で出産するケースは決して稀ではありません。熊本市を例に挙げれば、熊本赤十字病院や熊本市民病院ではたまに経験することです」
そして蓮田さんは、「反対する人の意見にはゆりかごが母親を甘やかしているというニュアンスが含まれている」と違和感を示した。
「予期せぬ妊娠を自分で処理できなかった女性が悪いというような感じを受けます。ですが、お産に伴う陣痛は時として指を切断するほどの痛みです。加えて、医師も助産師も家族もいないなか、ひとりで分娩に立ち向かう不安は男性の私には計り知れません。まして、初めてのお産であればなおのこと恐怖は増幅するはずです。決死の覚悟で孤立出産をせざるを得なかった女性たちが抱えている背景を見なくてはなりません。世間で思われているような安易な選択では決してない。一緒に責任を負うべき男性の問題を棚上げし、女性が追い込まれた現実に蓋をしているとしか思えません」
妊娠を打ち明けられず、思いつめている女性へ伝えたいこと
ゆりかごの運用が始まった2007年から2019年までの間に預け入れられた赤ちゃんは155人。赤ちゃんの多くは、孤立出産で生まれたと考えられる。母親がたったひとりで恐怖に立ち向かい、必死の思いで産み落とし、疲れ果てた身体で危険を顧みずに連れてきた命だ。彼らが無事に生まれ、ゆりかごにたどり着いたのは当たり前のことではない。慈恵病院が病院車で迎えに行き保護したあの女性も、入院後2日間の陣痛ののちにお産が進まず最後は帝王切開での出産となった。もし、自宅で出産していたら、長時間の陣痛に母子が耐えられたかはわからないと蓮田さんは言う。仮に逆子だった場合、赤ちゃんの命の危険は格段に高まる。
ひとりで産む以外にも選択肢はある。
妊娠を隠さなくてはならない事情があり思いつめている女性に、真琴さんはこのことを伝えたいと言った。
「まずは連絡してほしい。できる限りのお手伝いをしたいです。慈恵病院に限らず、各地でいろんな団体が妊娠相談の活動をしています。行政の電話相談もあります。ひとつ電話をしてみてもしうまくいかなくても、相性もあるのであきらめずに別の団体にかけてみてほしい。必ずどこかにつながるはずですし、つながってほしい。病院で安全に出産して生活を立て直すことをあきらめないでほしいです」