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水産会社から逃げた技能実習生だった

 1990年6月生まれのジエウは離婚歴のあるシングルマザーで、2015年に当時4~5歳の子どもを故郷に残して技能実習生として来日していた。当初は岡山県内の水産会社で「実習」したが2016年4月に逃亡、日本各地を転々とした末に1年ほど前から茨城県つくばみらい市に移った。事件当時は妹を含めた不法滞在者の女性3人で暮らしており、問題のミニバンを共用していたらしい。

(余談ながら、瀬戸内地域の水産加工会社は家族経営や同族経営が多いこともあり閉鎖的な職場環境が生じやすく、2013年3月には広島県江田島市で中国人技能実習生が勤務先の社長ほか9人を殺傷する事件を起こしている。今回の事件自体の悪質性はさておき、往年のジエウが逃亡した会社の労働環境は、本人や周囲の証言を聞く限りはひどいものだったようだ)

死亡ひき逃げ事件を起こしたチャン・ティ・ホン・ジエウ。本人のフェイスブックより。

 ジエウには前科があり、2020年8月31日にさいたま地裁で、出入国管理法違反(不法滞在)と道路交通法違反(無免許運転)で有罪判決を受けている。仮放免後、他の街に住む同胞に冷蔵庫と洗濯機を運ぶために執行猶予中にもかかわらず再び無免許運転をおこなって、今回の事件を起こした模様だ。

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無ビザ・無保険・無車検・無免許……

 彼女が逮捕時に潜伏していた場所は、つくばみらい市内で働く技能実習生のカン(30、仮名)というボーイフレンドの自宅である。私がカンを探し当てて取材したところでは、K氏を死亡させた現場から逃亡したジエウは同夜、彼の家に宿泊したらしい。カンはさらに言う。

「車を停めていたところに、他の車から勢いよく追突されたから、怖くなって逃げたと彼女は話していた。亡くなった人がいたとは知らなかった、自分は悪くない、って……」

 事故の原因が彼女にあったことは客観的にも明らかなはずだが、ジエウは恋人に対してこう強弁していた。

自宅でフォーを振る舞ってくれるカン。すれている印象を受けたジエウの恋人とは思えないほど爽やかなナイスガイだった。彼は技能実習生とはいえ、福利厚生のいい大企業に勤務しているため、広くて清潔な集合住宅に同僚と2人で住んでいる。2021年3月4日安田撮影。

 事実、私が拘置所にいるジエウに接見して直接話を聞いた際も、彼女は被害者の遺族への賠償金の支払いを拒否した(公判前に会った時点ではそもそも賠償義務があることすら知らなかった)。2回目の接見の際には、すでに初公判が開かれた後にもかかわらず、被害者のK氏の名前をまったく覚えていなかった。

※ジエウの家族やボーイフレンドのカンは、彼女の賠償金を多少は肩代わりしたいと申し出ている。