「きちんとした放射線量の測定方法の説明はありませんでした。ガラスバッジ(個人線量計)を車内にぶらさげている人たちもいましたし、屋内の神棚に置いている人もいました。みんながきちんとつけていないガラスバッジをもとに評価することに疑問を持ちました。しかも、同意のない個人データが、研究者に提供されていたんです」

 こう話すのは、「個人被ばくデータ利用の検証と市民生活環境を考える会」の代表、島明美さんだ。

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 2011年3月に起きた東京電力・福島第一原発の事故によって、福島県伊達市では高い放射線量が検出された。伊達市は、市民の被ばくデータを収集して、研究者に提供した。その研究成果は、イギリスの専門誌に掲載された。しかし、データ提供について住民には説明がなく、同意も得ていないデータが論文で多数使われていたのだ。

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 2018年12月の朝日新聞の報道では、市では「個人情報は含まれない」といい、研究者の一人が「大学が同意・不同意を知る状況にはない。問題にならないと考える」などと答えていた。

個人情報保護条例の手続きの無視、虚偽公文書作成の疑い

 この問題について、市議会の「被ばくデータ提供に関する特別委員会」は3月15日、最終報告をまとめた。研究者の倫理指針違反や、市側の個人情報保護条例の手続きの無視、虚偽公文書作成の疑いなどを指摘する内容だった。

 島さんは市議会特別委の最終報告について「とても踏み込んだ内容」とする一方で、「はっきりしない部分が残っている」と、更なる追求が必要としている。

個人の被ばくデータが漏れたことに関する問題点を指摘する島さん

 事故当時、福島第一原発から20キロ圏内には避難指示が出された。また、20~30キロ圏内は屋内退避指示が出され、緊急時避難準備区域となった。20キロ圏外でも、当時の風向きや地形によって、事故後1年間の積算線量が20mSvを超えると予想された地域は、「計画的避難地域」となり、避難することになった。

 伊達市は、同原発から北西に約60キロ付近の位置にあるものの、放射線量が高い地域があった。首相官邸のホームページによると、2011年6月30日時点で、伊達市の104地点、113世帯が「計画避難地域」と同水準の年間積算線量となる「特定避難勧奨地点」とされた。当時の政府は、「ただちに健康被害はない」との立場だった。こうしたこともあってか、島さんを含めた多くの市民は避難する判断ができず、現地に留まった。