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「私たちの『被ばくデータ』が同意なしで提供されていた」市職員処分でも謎は残る

福島県伊達市の「被ばくデータ不正提供」問題

2021/03/24

genre : ニュース, 社会

危険があれば、国が守ってくれると思っていた

 事故後1年間の積算線量20mSvは、毎時で計算すると、3.8μSv(滞在時間を屋内で16時間、屋外8時間として計算した場合)となる。市の「一斉放射線量測定マップ」によると、2011年8月に行った第1回目の測定では、毎時3.5μSv以上のエリアが19地点。3.0~3.5μSv未満は12地点、2.5~3.0μSv未満は16地点。2.0~2.5μSv未満は41地点など。

「この頃は、危険があれば、国が守ってくれると思っていた」(島さん)

 市は2011年7月から、外部被ばく線量測定のための個人線量計(ガラスバッジ)を市民に配布した。内部被ばく検査としては、ホールボディカウンターでの検査を行っている。このデータが、科学者の論文に利用されたが、市民への説明や同意が行われていなかった。

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 市議会特別委は2019年6月に設置された。しかし、その前に、市で「被ばくデータ提供に関する調査委員会」が設置され、先行して調査が行われ、その報告を待っていた。報告は2020年3月17日付で発表された。

 それによると、データの提供先は、福島県立医大放射線健康管理学講座助手(当時)の宮崎真氏と、元東京大学大学院理学系研究所教授の早野龍五氏。市の調査委による調査以前は、データが58,481人分(このうち、提供に同意ありは31,151人分、提供に不同意91人、同意書未提出は27,233人)となっていた。

目的外利用された除染データ

 しかし、調べてみると、実際のデータは65,392人分で、このうち同意書未提出は34,144人分だったことがわかった。外部被ばく線量測定業者からCD-Rに入ったデータを市が受け取り、そのCD-Rが研究者に提供されたという。この中には、7922件の除染データが目的外利用され、外部提供の同意もなかった。さらに、83682件の内部被ばくデータもあったが、このデータには提供の同意があった。

 また、福島県立医大理事長兼学長と宮崎氏あてに、論文作成についての依頼文書が作成されていた。しかし、日付が「2015年8月1日付」だったものの、作成されたのは「2015年10月23日頃」だったことがわかっている。この詳細な経緯に関する文書は残ってない。

 さらに、市から宮崎氏に外部被ばくデータを提供したのは「2015年8月12日」とされている。このデータは、匿名化したものであったため、保護すべき「個人情報」の対象とはされなかった。しかし、早野氏が作成した資料(同8月19日付)を確認すると、宮崎氏に提供したデータの中には、住所情報、外部被ばくデータ、除染データが含まれていた可能性が否定できない。匿名化されていない場合、調査委としては「個人情報」に該当する、としている。しかも、データを加工する際の使用したパソコンが特定されなかった。