今、日本女子長距離界で圧倒的な「速さ」を見せるアスリートがいる。
2020年、10000mとハーフマラソンで日本記録を叩き出した新谷仁美である。その彼女が今、競技以外の分野で積極的に発信していることがある。
それが“女性アスリートの生理”についての問題だ。
「私もかつて無月経の時がありました」
そう告白する新谷が、女子アスリート界に根深く存在する生理の問題について語った。(全2回の1回目。#2を読む)
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走って速い人が勝つ世界で、なぜ体重の数字が必要?
新谷の言う生理の問題点とは、体重のコントロールとの関係が大きい。
長距離界では「体重が1kg軽ければマラソンのタイムが3分伸びる」と言われることがあるほど、体重とタイムを紐づける傾向が強い。
だが、減量が行き過ぎれば、女性の場合、生理は止まる。
陸上の名門・岡山興譲館高校に進学し、全国高校駅伝のエース区間1区で3年連続区間賞を獲得するなど、学生時代から目覚ましい活躍を見せた新谷。振り返ると、中高生のときは体重に関しても、生理に関しても否定的に捉える人はいなかったという。
「ありがたいことに高校時代の恩師の森政(芳寿)監督は『生理があることを強みだと思え。自分でうまくコントロールしていくのもひとつだし、俺が練習メニューを調整することもできる。だから生理がきついときは言ってほしいし、新谷が望むなら多くの選択肢がある』とおっしゃってくれて。センシティブな話ではあるので、監督とはいえ異性と生理について話すことに抵抗がある子もいるでしょう。
私は性格的にあまり気にしないタイプだったので、自分の身体のことについてきちんとコミュニケーションを取ることができて、家族や先生と話すことをポジティブに捉えることができました。少なくとも今までの人生で生理がなくていいと思ったことは一度もありませんでした」
そんな状況が変わったのは、実業団に入ってからだ。
「毎日体重を測られて、厳しく管理されていました。(規定体重を)オーバーした選手を前に出させ、ダンベルを持たせて『どうだ重いだろう。これがお前の肉なんだ』と言われたり、炭水化物を取るなと毎日のように言われ続けていた選手もいました。もちろん、動きが悪くなったり、フォームが崩れていたら別ですが、単純にその時の数字だけで『今日のお前は太っている』というのは、偏った価値観でしかありません。
太っているわけではなくて、むくんでいたり、月経の周期によって体重が増えている場合もあるわけです。実際に私も体質的にむくみやすい。『体重を競う世界ではないでしょ? 走って速い人が勝つ世界なのに、なぜ体重の数字が必要なんですか?』。そう言って私は体重を測るのを拒否しました」