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身長165cm、体重40kg、体脂肪は3%で、無月経

 生理が来ないというのは、女性ホルモンが分泌されていないということを意味する。

 長期間放置すれば、卵巣が萎縮し、不妊になる可能性が高まる。女性ホルモンには骨密度を上げる働きもあるため、長く骨折のリスクを抱えることにもなる。無月経はそのときだけでなく、体に長く悪影響を与えることなのだ。

 だが新谷は生理が来ない怖さと戦いながらも、体重を戻すことは考えていなかった。

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「結果に囚われていたんです。もちろん結果を出さなくてはいけない世界なのですが、体重を減らすのではなく、テーピングやケアで症状を和らげる方法もあるし、コーチとコミュニケーションをとって練習メニューを調整したり、かかとへの衝撃を和らげるような靴を選んだり、他に改善すべきことはたくさんあったはずなのに、そこに意識が向かなかった。そして、そこまでしても結局、怪我も痛みも減らなかったんです」

©文藝春秋

 2013年8月の世界陸上モスクワ大会、10000mの日本代表に選ばれた新谷は、試合前に痛み止めを打って出場し、5位入賞を果たす。このとき身長165cm、体重40kg、体脂肪は3%で、無月経だった。

生理があっても強くなれると証明するために

 目指していた世界大会を終え、再び生理が戻ってきたのはその年の暮れだった。

「生理を戻す努力はしませんでした。モスクワが終わって燃え尽きて、走らずにきちんと食事をして、好きなものを食べていたら、体重が増えていって、自然に生理が再開しました。でも体重が戻っても、すぐに生理が始まるとは限らなくて、今考えれば奇跡みたいな話なんですよね。モスクワ大会は競技生活の中で最高位ですが、無月経で取ったことで、今の私にとっては汚点でしかありません。生理があっても強くなることができると証明するために、私はこれからの競技人生で、この自分の成績を超えなくてはいけないし、それが私の役割だと思っています」

 今、新谷は健康診断以外で体重を測ることはない。自宅にも体重計を置いておらず、体脂肪率もわからないという。

 

「私は練習での走りの感覚で、体重に問題がないかを判断しています。総合的にきちんと練習ができていれば、それがベスト体重ということ。その時に『今、何kgだろう』と気になる方もいると思いますが、そうすると目先の体重に追われるようになってしまいます。

 今日の走りの状態がいいと思ったら、前後に食べた食事や、行動を見返してみればいい。そうすれば数字に囚われることなく、走りに集中できる。こだわるべき数字は体重ではなく、タイムなんですから」

撮影=榎本麻美/文藝春秋

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