40年にわたる父との二人暮らしは、父の死によって終わりを迎えるはずだった。しかし、息子(61)は誰にも死を伝えず、父の亡骸と暮らし続けていく道を選んだ。警察に発見されるまで、共に過ごした期間は24日。はたしてどんな思いで日々を過ごしていたのだろうか。

 朝日新聞社会部記者が見つめた“法廷の人間ドラマ”をまとめた書籍『ひとりぼっちが怖かった 今日も傍聴席にいます』(幻冬舎)の一部を抜粋。父の死後も遺体との二人暮らしを続けた男性の悲痛に満ちた供述を紹介する。

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「ひとりぼっちが怖かった」

 暑さが続いていた2019年7月末の夜、東京都足立区の団地の一室。息子(61)は91歳になる父の荒い息づかいで目が覚めた。「フー」「フー」と胸を上下させた後、呼吸は徐々に弱くなり、消えた。40年にわたる2人暮らしが終わった。だが、息子は誰にも死を伝えず、そのまま一緒にいることを決めた。逮捕されるまでの3週間あまり、息子は2人で暮らした部屋で何を思い、何をしていたのか――。

 息子は父の遺体を24日間にわたって放置したとして、死体遺棄罪に問われた。11月5日、東京地裁で開かれた初公判。息子は灰色のトレーナーにズボン姿で細身の体を固くして直立し、検察官が読み上げた起訴内容について「(間違っているところは)ございません」とはっきり答えた。

 検察官と弁護人の説明や、息子が朝日新聞の取材に答えた内容によると、事件に至る経過はこうだ。

 両親と息子の一家3人は、息子が小学校に上がるころから足立区の団地に住み始めた。息子は定時制の高校を卒業後に衣料品の販売店員として働いたが、20歳のころに母親が乳がんで死亡。父と子2人きりの生活になった。

※写真はイメージ ©iStock.com

 着物の友禅染の仕事で家計を支えていた父は、母の死を機に、より安定的な仕事を求めて高校の用務員に転職。一方で息子は28歳のころに仕事を辞めた。トラブルがあったわけでも体調が悪かったわけでもない。特に理由はなく、自宅に引きこもるようになった。父に促されて2~3年は就職活動を続けたが、うまくいかずにあきらめた。

 買い物に食事の用意、洗濯、掃除。家事に精を出すようになると、父は何も言わなくなった。生活費は父の給料や年金でまかないながら、30年ほど過ぎた。