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《実父死体遺棄》ひきこもり息子(61)が語った父の亡骸との二人暮らし「何日かして、虫がわいてきました」

『ひとりぼっちが怖かった 今日も傍聴席にいます』より

 だが何日か経つと、遺体には変化が現れ始めた。全身から透明な体液がたれ始め、布団に染みていく。夏の暑い時期、においも強くなってきた。周りの住人に迷惑をかけないよう、布団と床の間にビニールを敷き、消臭スプレーでごまかした。

 傷みが激しくなるにつれて、「かわいそうなことをしている」という気持ちになった。そんなとき、警察官が異臭騒ぎを聞いてやってきた。最初は「部屋のなかは見せたくない」と抵抗したが、心のなかではほっとしていたという。

「……迷惑をかけたくなかった。ですが、どうしても言い出せませんでした」

 被告人質問では、検察官が放置の理由を突っ込んで問いただした。

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 検察官「8月24日に警察官が来なければ、どうするつもりだったんですか」

 息子「特にどうという考えはありませんでした。誰にも言えなかったし、そのままにしていたと思う」

 検察官「何が怖かった」

 息子「見つかることが。見つかったら自分がひとりになる怖さがあった」

 検察官「ご遺体が変わっていく様子を見て、何も思わなかったんですか」

 息子「やはり、かわいそうだと思いました」

 検察官「周囲に迷惑がかかるとは」

 息子「もちろん思いました」

 検察官「それでも孤独になりたくないという気持ちを優先させたということか」

 息子「……迷惑をかけたくなかった。ですが、どうしても言い出せませんでした」

 検察官「そのままにしたら、(父の)年金が払い続けられていたのでは」

 息子「取り調べでそう言われて、気づきました」

 銀行の口座には、父の死亡後も1カ月分の年金が振り込まれていた。息子は手をつけていないが、検察官は論告で「不正受給にもつながる悪質な事案だ」と主張し、懲役1年を求めた。

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 一方で弁護人は、息子の心情に理解を求めた。「親戚付き合いもほとんどなく、会話ができるのは父ばかり。知人や友人もおらず、極めて孤独だった。強く非難できない」