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中3だったベッキーの無邪気なリクエストに、キートン山田さんは……

 その『犬刑事』のアフレコ現場で雑談中、キートンさんが意外にもそれまで実写作品への顔出しのない事実が判明。そこで「次回作ではぜひ顔出しで!」というお話になり、次の特撮ビデオ・シネマ『魔神騎士ジャック☆ガイスト』(2000年)全3話に、風刺画好きの瘋子雅教授なるコメディ・リリーフ役でご出演いただいた。そこでの演技も見事と言う他はなかったが、忘れられない思い出がひとつ。

ベッキー主演の『魔神騎士ジャック☆ガイスト』(販売元:ハピネット・ピクチャーズ)

 このドラマの主演は当時中3だったベッキー。現場入りしたキートンさんを、「ほらベッキー、『ちびまる子ちゃん』のキートンさんだよ。ご挨拶して」とご紹介。普通に「お早うございます。ベッキーです」と答えたものの、何やらポカンとした様子。キートンさんご本人と『ちびまる子ちゃん』のナレーションが即座には結び付かなかったのだ。そこでキートンさんがひと言。「後半へつづく~~」。ベッキーの大きな瞳がさらに大きく輝き「ワーーッ! あの声だ!? 『ちびまる子ちゃん』だ!!」と大はしゃぎ。「ねね、もっと言ってもらっていいですか?」とのベッキーのリクエストに、キートンさんは即座に「そんなことはない」、「どうもしなくてよい」、「バカなことを考える間に、さっさと宿題をしたらどうだ?」等々の名調子を次々にご披露。その都度、手を叩いて大喜びしていたベッキー。キートンさんの温かい心遣い、サービス精神に改めて感服した。

ベッキーさん ©️文藝春秋

 今回のキートンさんの引退は、大勢の方が引き止めただろうし、筆者もお引き止めしたいところだが、キートンさんの、「『ちびまる子ちゃん』のさくら友蔵の設定年齢が76歳。自分もその歳になったので」や、「弱ってから、ボケてからじゃ人生の後片づけは無理」というコメントを拝読するに従い、これは寧ろ喜んで送り出す他はない……と思った次第。いや、それどころかひとつの“人生のお手本”でもある。

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若かりしころのおキートン山田さん ©️文藝春秋

 それにしても、「あのとき現場でサインをいただいておけば……」というのが今のほんのちょっぴりの私の後悔だったりします。キートンさん、本当にお疲れ様でした!