寺澤町長が語った俊夫さんの仕事ぶり
雅子さんは町長に尋ねた。
「夫のこんな仕事中の姿って、見たことなかったんです。それにこの腕章。近畿財務局って書いてありますよね」
寺澤町長は深くうなずきながら答えた。
「財務局の対応は早かったんです。被災者の方はどうしても気が立っていますから荒々しい言葉になることもあって、応対は大変だったと思いますけど、冷静に正確に手早く必要なことを聞き出して書類を作っていました。震災直後で一番大変な時に支援にあたってくださった。食事もろくにとれなかったと思うし、皆さんがどこに宿をとっていたのかも知らないんです。あの状況でお礼のようなことは何もできませんでしたが、今でも本当に感謝しています」
ここで雅子さんは、いつ言おうかと思っていた話を切り出した。
「夫のこと、近畿財務局で起きたことはご存じでしょうか?」
寺澤町長はその言葉を引き取るように答えた。
「はい、承知しております」
皆まで言わなくても大丈夫ですよ、という配慮を感じて、雅子さんは心の底からほっとした。実はとても不安だったのだ。これまで俊夫さんが亡くなった後も裁判でも財務省や近畿財務局からけんもほろろの対応を受けてきた。七ヶ浜町役場でも、関わりたくないという冷たい対応をされるのではないかと気にしていた。でも実際には役場の人たちは温かく迎えてくれた。とっちゃんと近畿財務局の対応に感謝してくれている。それが何よりありがたかった。
裁判でも被災地のような緻密で素早い対応を見せてくれたらいいのに
でも、同時に思う。近畿財務局は被災地で緻密で素早い対応を見せて感謝されたのだから、裁判でも緻密で素早い対応を見せてくれたらいいのに。焦点となっている、とっちゃんが改ざんの全容をまとめた「赤木ファイル」なんて、公開しようと思えばすぐにできるはず。
それにあのとっちゃんの腕章。服の胸にも近畿財務局って書いてある。財務局の職員だということを誇りに思っていたんだろうな。それが後に改ざんをさせられて死ぬことになるなんて、ほんとに悲しすぎる。七ヶ浜町役場の人に本当によくしてもらっただけに、近畿財務局の対応が残念すぎる。
役場を去る時、寺澤町長と高橋総務課長、植杉秘書係長の3人がそろって玄関の外に出て、レンタカーの姿が見えなくなるまで見送っていた。最後まで礼を尽くしてくださった。