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「何でこんなところに金持ちの日本人がいるんだ。自分たちと同じような奴らもいるのか。女にだまされ、お金を取られたんじゃないかと噂で聞いている。卵の揚げ物を露店で売っているということは、お金がないんだなと思う。ここしか寝るところがないというのは可哀想だな」
靴磨きの男性から話を聞いていると、妻と思しき女性が近づいてきた。お腹が大きく、妊娠中だった。
「路上生活をしていてどこでセックスするんですか」と聞いてみたら、「あっち」とマニラ湾の方向を指さし、笑った。
通路脇にはベンチ、路上生活者たちが暮らす露店市場の光景
教会から正面ゲートまでの通路脇にはベンチが並び、昼間は路上生活者たちが座ってボーッとしている。
――何もしない。ただ息を吸って吐いているだけ――。
そこに佇んでいる人々を見るとそんな気がしないではいられなかった。
通路の段差のところに座っていた72歳の老婆は 「仕事がほかにないので物乞いをしています。ここは何時までいても警備員が追い出すわけではないので、居心地がいいんです」と話してくれた。額に刻まれた何重にも連なるしわが、これまでの人生の年輪を表していた。
正面ゲートのすぐ前はトウモロコシ、衣類やかばん、たばこなどを販売する露店が所狭しと立ち並び、大通りには大型バスが「パパパパパーン」とクラクションを何回も鳴らし、連なってのろのろと走行していた。縦横無尽にうごめく買い物客、人々の笑い声、頼んでもいないのにほうきで掃除を始め、お金を要求してくる少年。熱気に包まれた東南アジアによくある露店市場の光景が広がっていた。