昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2021/04/19

体調を崩しても路上暮らし以外の道はなく

 もちろん、こんな場所で生活をしているのだから時には体調を崩すこともある。ある晩、教会を訪れると吉田は長椅子に座ったままじっとしていた。声を掛けてみると、

「ちょっと前から腰がジワーッと痛み出した。どっかこわれたかな」と右腰の辺りを手で押さえていた。しばらくすると、

「横になってもええかな」

 と長椅子に足を伸ばし、あお向けになった。教会の中で横になって寝ると注意されるため、警備員が早速やって来たが、

「彼は病気だから」と説明して許してもらった。だが間もなくすると、

「気持ち悪くなったんで、吐いていいですか」

 と吉田は長椅子から立ち上がってふらふらと歩き出し、教会の外の一角で嘔吐し始めた。思った以上に深刻そうだったため、警備員に付き添ってもらい、タクシーで近くの病院へ向かった。

 到着したのはベッド数30の小さな病院。吉田は診察台に横たわり、医師の診察が始まった。腹部を「ポンポン」とたたいた医師は「特に異常はない」とやる気なさそうに話す。その後に行われた血液検査も「異常なし」だった。ベッドの上で何も言わず、身動きしない吉田。1時間ぐらいすると、

「だいぶ痛みがひいてきたわ」

 と回復した様子をみせたので、とりあえず病院を出ることにした。

写真=著者提供

「また教会に戻りますか」

 と私が尋ねると、吉田は黙ったまま。その表情から教会に戻って寝たくないのを察して、安ホテルを探し回った。午前4時ごろに教会から車で10分ぐらいのユースホステルに空きが見つかり、とりあえず吉田はそこで眠ることになった。しかし、同じ日の午後にユースホステルに電話を入れた時には、吉田はすでにチェックアウトし、また元の生活に戻っていた。

【続きを読む】“日本におって寂しかった”“ここで死んでもいい” 家族にも見捨てられフィリピンで路上生活を送る「困窮邦人」の末路

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

この記事の写真(19枚)

+全表示

ツイッターをフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー