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「ママ、イヤ!」と号泣されるのは少しテンションが下がる

 夫は授乳以外の、自分にできるあらゆることはすべて行った。

 おむつ替えも、寝かしつけも、沐浴も、保湿も、散歩も、買い出しなどの家事も、細かい事もすべて。

 授乳回数が多い時期は「ママじゃないとダメ」な時は確かに存在した。それでも毎日育児をすることで、少しずつ、確実に、娘たちの中の自分を大きくしていった。

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 いま、娘たちがパパ大好きなのは、紛れもなく夫の努力の上に成り立っているのだ。

 父親だから当たり前、かもしれないが、私が頑張っているのと同じように、夫も当然頑張っている。

夫と長女と、抱っこ紐にいる次女 ©上田初美

 かくしてパパ大好き星人が2人誕生した訳だが、「ママ、イヤ!」と号泣されるのは私も少しテンションが下がる。しかし、これはどうしようもないのだ。私が無理にやろうとすれば、更に号泣し、状態は悪化する。誰がどう見ても夫がやった方が早い。

 同時に一方で、毎回「パパがいい」と押し付けられている側の気持ちも、私は分かるのだ。

 いくら長時間遊びに連れ出していても、日常の細々したものをすべて任されるのは辛いだろう。

 そこで、将棋には便利な言葉がある。その名も「形作り」だ。

 負けが決まっている戦況で、綺麗な投了図を求めることを指すのだが、育児は形作りがとても大事である。

育児や夫婦においては、互いの心情が大事なのだ

「ママ、イヤ!」で負けはもう確定している。

 後はどのように場を綺麗に収め、美しい投了図を作るかが夫の機嫌を左右する。

 初手は「私がやりましょうか?」と聞く。すると娘が「ママ、イヤ!」と頭金を打ってくる。

 これもう詰んでますよね?と夫に確認すると、「俺がやる」となる。

 ここで「この空いた時間に何かやっておくことはありますか?」と聞くことがポイントである。喜んでスマホを眺めるのは大悪手。美しくない投了図が待っている。

 指示があれば、それに従い、なければ夫が終わった後に「お疲れ様でした」と肩を5回位揉む。これが育児における形作りである。

 対局は勝ち負けがすべてで心情は関係ないが、育児や夫婦においては勝ち負けは関係なく、互いの心情が大事なのだ。

 最近5歳の長女は、将棋を指すのがパパの仕事だと、ぼんやりと理解したようだ。

 大好きなパパが盤上で戦い、勝ったり負けたりする姿を見て、何を思うのだろう。なるべくならポジティブな想いを抱いていて欲しいと思う。

 ちなみにママは「将棋はわからない」と言っていて、次女はまだそれを信じて、長女は「ママ本当は将棋できるんでしょ?」とちょっと疑っている。

 いや、本当に、将棋ってわからないんだよなぁ。

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