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被害者が強制的に意識を失わされていることは明白

「これ、火傷じゃないかな。準強姦だと3年以上の有期刑だけど、準強姦に傷害が付けば、最高刑は無期懲役だ」

 この日からしばらくは、モニターとにらめっこになった。辛い光景の連続だった。おぞましい映像を見ていると、心苦しささえ感じてしまう。被害者が強制的に意識を失わされていることは、明白だった。

 まず疑問に感じたのは、被害者の顔に常にタオルが掛けてあることだ。しかし、映像を進めるとすぐ解けた。行為の途中で、被害者が首を振るなど覚醒の予兆を見せると、織原はベッド脇のテーブルから褐色の薬品瓶を手に取り、中の液体をタオルにかけて、再び被害者の顔に被せるのだ。

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©iStock.com

 すると被害者が意識のない状態に戻ることから、液体は麻酔系のものと推定できた。エーテルかクロロホルムと考えたが、エーテルは揮発性が高くて自ら吸い込んでしまう危険性や爆発のリスクがあるため、クロロホルムだと思われた。

 褐色の薬品瓶は、一見して薬品と判るラベルが付いているものと、ラベルが剥がされたものなど、いくつかの種類が映っていた。ラベルが付いている瓶は、その部分の静止画を切り取って各種画像解析を試みた。しかし文字までは読み取れなかった。撮影したカメラの解像度が低く、文字も小さく、当時の技術ではどうしようもなかった。

「このラベルを剥がした跡……」

 ラベルが剝がされた瓶については「これは無理だな」と思っていたが、ぼんやり見つめているうち、あることに気が付いた。「このラベルを剥がした跡……」剥がしたあとの糊の跡がラベルの紙と一緒に固まって、筋状に残っている。「この糊の付き方は、世界にひとつしかない。これ、指紋と同じじゃないのか」

 この薬品瓶が証拠品として押収されていれば、内容物の鑑定に持ち込まれているかもしれない。特捜本部に問い合わせると科捜研で鑑定中だとわかったので、すぐに向かった。鑑定はすでに終了し、内容物は99%クロロホルムだと判明していた。この瓶の返却を受け、科学捜査官室に戻って画像解析に取りかかる。