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女性を眠らせて性行為に及ぶ鬼畜…男の有罪を決定づけた“警視庁初”の科学捜査方法とは

『警視庁科学捜査官 難事件に科学で挑んだ男の極秘ファイル』より #2

2021/04/02

source : ノンフィクション出版

genre : ニュース, 歴史, 社会, サイエンス

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特捜本部事件の終結

 平成13年2月9日、ルーシーさんの遺体が発見される。織原のマンションから近い海岸の洞窟に、切断された状態で埋められていた。

 その後もさまざまな質問や関連文献の調べに追われ、意見書は合計5通作成し、証人として公判に出廷した。織原の弁護士からの最初の質問は、「肝炎はA型からD型が知られていますが、実はE型というのがあるんです。証人はご存じですか」

 だった。私は、こう答えた。

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「はい。知っています。それ以外にも、F型、G型、TTV型などが存在します」

「えっ。そうなの」

 と慌てた様子が見えたので、「この弁護士は、私の意見書をあまり理解していないかもしれない」と直感した。

 重ねて、

「証人は、クロロホルムを用いた研究などしたことがありますか」

 と尋ねられた。私の専門である薬毒物の最新研究では使わないはずだと考えた、よい質問だと思った。すなわち「あなたはクロロホルムの毒性を論じているが、自分で毒性の実験をやった経験はないんでしょ?」という意味で、裁判官に対して、専門家としての資質の心証を下げることが目的だ。

「はい。毒性などはすでに確立した分野ですので、毒性の研究目的に使用したことはありませんが、動物実験でマウスなどを使用したときの安楽死のために、クロロホルムを使用していました」

 と答えた。証人出廷では落ち着いて質問を聴きながら、どんな回答がいいか考え、瞬時にまとめなければならない。このときは別の答え方も頭をよぎったが、こちらのほうがクロロホルムの毒性を強調できると思った。

©iStock.com

 弁護士は「しまった」という顔をして、次の質問に移った。

 特捜本部事件が終結し、起訴祝いで打ち上げ会が催された。嬉しかったのは、新妻管理官が横に来て、顔を寄せながら言ってくれた一言だった。

「あんたは、ほんもんだ」

 平成22年12月8日、織原に無期懲役が確定した。

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