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捜査で初めて活用された3D画像

 この頃の科学捜査官室は、画像分野を中心として分析資機材やソフトなども充実途上にあり、各種解析手法も開発し始めていた。大学や部外の研究室との連携も取りながら技術を習得し、作業していた。

 ラベルが剥がされた褐色の薬品瓶の画像をいろいろな角度から撮影し、静止画として取り込んでから360度の立体映像にする。それを回転させながら、押収したビデオテープの映像から切り取った静止画と、重ね合わせていく。ピッタリ重なった。「これだ!」手元にある瓶と、画像に映っている瓶の、ラベルを剥がした跡が一致したのだ。3D画像の活用は、これが初めてだった。

 しかし公判対策を考えると、科捜研の鑑定書が必要だと考えた。早速、特捜本部に手続きを取ってもらった。最初は「やったことがない」と渋っていた研究員も、最終的には結果を出してくれた。いまなら、3Dの立体画像で処理すれば簡単に済んでしまう作業だ。

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 織原がタオルにかけていた瓶の中身は、やはりクロロホルムだった。

類似する事件でもクロロホルムの使用が疑われた

「カリタの件なんだけど、どうやら劇症肝炎で死んだらしいんだよ。どう思う?」

 また私を呼び出した有働理事官は、そう切り出した。

 オーストラリア人のカリタ・シモン・リジウェイさんという21歳の女性が、8年前に亡くなっていた。織原の別荘から病院へ運ばれ、劇症肝炎から肝性脳症を併発して、数日後に死亡していたのだ。

 警察も検察も、この死亡と織原の行為との因果関係が見えずに困っていた。その後のルーシー事件捜査を見据えてのことだと感じた。

「クロロホルムには、急性・慢性を含めて肝臓毒性がありますよ」

「本当かぁ!」

 有働理事官は椅子から飛び上がった。

「クロロホルムの肝臓毒性は有名です。以前は麻酔薬として使用されていたんですが、肝臓毒性が発見されてから、使われなくなっているはずです。劇症化するかどうかは調べてみますが、たぶん間違いないと思います」

「いける。これで逮捕状が取れる。ハラさん、ありがとう」

 いきなり私の手を両手で強く握ってきた有働理事官は、涙目になっていた。