私は綾子さんに「会うのに迷いや不安はありませんでしたか」と質問した。綾子さんは、
「私は怖くなかったけれど、仲のいい友達にも『怖くない?』『その男は実在するの?』と心配されましたよ」
と笑った。その友達は、綾子さんの飛行機の便を聞き、「熊本に着いたら連絡してね」と念を押したそうだ。綾子さんが物騒な事件に巻き込まれることを心配していたのだろう。杞憂だったとしても、そうやって親身になってくれる友達がいるのは素敵なことだ。
準備されていたサプライズプロポーズ
無事にデートにこぎ着けた二人。ずっとビデオ通話をしていたこともあり、お互いずっと一緒にいたような居心地のよさを感じた。すると、紀徳さんは「近くで高田さんがイベントをやっているから会いに行こう」と誘い、熊本市内の結婚式場に向かった。綾子さんはオンラインのパーティーやお見合いの席で何度も「会っていた」高田さんとの初対面を喜んだ。
実はこの日、紀徳さんはサプライズでのプロポーズを企画していた。
「オンラインでやりとりをする中で、綾子さんには負の部分をさらけ出すことができた。この人しかいないと思ったんです」
高田さんとLMOのスタッフはサプライズの協力者として福岡から熊本まで駆けつけていた。綾子さんが高田さんらに促されてチャペルに入ると、トイレに行っているはずの紀徳さんの姿が。そばに近づくと、紀徳さんは緊張した様子で「あなたと一緒にいたい」などと用意していた手紙を読み上げ、指輪を差し出して求婚した。
「まさか会ったその日にプロポーズなんて予想もしていなかった」という綾子さんも、迷うことなくその場で受け入れた。その様子はこれまでオンラインパーティーに参加した仲間たちに中継され、二人は大きな祝福を受けた。
翌日、二人は高田さんらが見守る中、熊本市の区役所に婚姻届を提出。正式に夫婦になった。予期せぬプロポーズだったため、綾子さんは急きょ父親に「結婚しようと思うんだ」と電話を入れた。綾子さんの父親は驚いた様子を見せながらも、「二人で考えて決めたことならいいんじゃないか」と賛成してくれた。
取材中、私が「最初から好印象だったのですか?」「他の女性とオンラインで会ったことは?」などと答えにくい質問をしても、二人は笑顔で率直に答えてくれた。画面越しにも、二人に信頼関係ができていることが伝わってきた。紀徳さんは、
「普段だったら、職業も年齢も異なる二人が、熊本と東京で出会うチャンスはなかったと思う。コロナは大変だけれど、災い転じて福となすといった感じでしょうか」
と笑顔を見せた。コロナ禍が落ち着いたら、同居や挙式なども進めていくそうだ。夫妻はコロナがつないだ縁をこれから紡いでいく。