100年に1度の変革期が、自動車産業に到来しているという。
変革の象徴となるのが、ITの聖地・シリコンバレーに拠点を置くテスラである。「電気自動車(BEV*)」と「自動運転」の両面において業界をリードし、時価総額はもはや日本の自動車メーカーが束になっても敵わない水準に至っている。
* battery electric vehicleの略。動力源として内燃機関(エンジン)を用いず、バッテリーによって駆動されるモーターの力のみで動く自動車。EVとも表記されるが、内燃機関とモーター双方を用いるPHEV(プラグインハイブリッド)などとの区別上、とくに純粋なバッテリー駆動の電動車を指す場合にBEVの記載が用いられる。
BEV化に慎重な姿勢を示す国産メーカー
実際の販売面も順調であり、テスラの世界販売台数は2020年で50万台に迫る。コロナ禍で世界的に新車販売台数が落ち込むなかで、昨年から36%も上積みがなされた形だ。
ところが、ここ日本においてはまったく事情が異なっている。2020年におけるテスラの国内販売台数は全モデル合わせても2000台に満たず、生産停止寸前の不人気車種のような数字である。革新的なイメージと話題性から、一部の芸能人やYouTuberなどがセルフブランディングを兼ねて購入するケースは耳にするが、日常生活でお目にかかる機会はそうそうない。
BEVに対して、世界と温度差があるのは消費者だけではない。欧米や中韓メーカーがこぞってBEV化を進めるなかで、国産メーカーの多くは慎重な構えを見せる。「日本は自動車産業においても競争力を失ってしまうのではないか」と危惧する声も聞かれるが、実際のところはどうなのだろう。
そもそもテスラは何が凄いのか
「自動車の常識を根底から覆す」と言われるテスラだが、一体何がそれほど違うのだろう。
たとえばiPhoneが革新的だったのは、その多機能性ももちろんであるが、何より直感的な操作を可能とするインターフェイスである。「なんとなくの操作で高度な技術が使える」点が、広く普及する要因となった。
テスラについても同様のことが言える。インテリアにはスイッチ類が設置されておらず、エアコンやシート位置、ナビゲーション、自動運転の設定まで、操作のほとんどをタッチパネルディスプレイで完結させる。ミラー位置などもタッチパネルでの操作となるので、慣れないと面倒に思えるが、キーに連動してパーソナライズした設定が自動的に呼び出されるため、所有者にとってはストレスフリーだろう。
動力性能も、スーパーカーと遜色ない水準、あるいはそれを凌ぐほどの次元に達している。当然、エンジンの唸りや振動とは無縁であり、無表情のまま自在に道路を滑っていく。微塵も「必死さ」を感じさせないスムーズな加速感は、自動車が移動手段として「新たな領域」に入ったことを実感させる。