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世界では年間50万台、日本では2000台未満…電動自動車「テスラ」は何がすごいのか

先頭を走るTESLA、虎視眈々と巻き返しを狙うTOYOTA

2021/03/31
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買い換えの必要なく「完全自動運転」までアップデートしてもらえる?

 さらに、テスラが際立っているのは先進運転支援システム(ADAS)の充実度である。「ウィンカーを捻れば勝手に車線変更してくれる」など、現状においても優れた制御を行ってくれるのだが、多くの購入者を惹きつけるのがそのアップデート機能だ。iOSのようにシステムが自動でアップデートされ、最終的には完全な自動運転ができるようになるまで更新されるという。わざわざ車両を乗り換える必要なく、自動運転のシステムが進化していくわけである。

 総じて、テスラの革新性は「車のスマート化」という点にある。車を「ソフトウェアで動かすデバイス」と考えることで、「直感的に高度な機能を使えるインターフェイス」を整えたのである。

 バッテリー制御も秀逸だ。航続可能距離においては他社をリードする水準にあり、BEVで懸念されるバッテリー劣化の問題に関しても、20万km以上走って90%以上の容量がキープされるという調査結果が示されている。

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テスラの信頼性は低いのか

 こうした数々のメリットにもかかわらず、テスラが日本で受け入れられていないのは、「ポッと出」に対する警戒感もあるのだろう。実際のところ、メーカーとして信頼できるのだろうか。

 ネット上には、テスラ購入者による投稿動画などで、「雨漏りで電子回路が故障した」「運転中ルーフが飛んでいった」「ドアガラスが勝手に割れた」といった不具合が報告されている。

 今年の2月には、「モデルS」と「モデルX」の一部車両において、運転支援系の制御装置に用いられるメモリーが5~6年で故障するおそれがあるとして、米運輸省高速道路交通安全局(NHTSA)がテスラにリコール実施を要請した。

 こうして見ると、テスラは車を「ソフトウェア」的な観点から開発しているために、ハード面の作り込みは既存のメーカーの信頼性にはまだ及んでいない、ともいえるかもしれない。

テスラユーザーの満足度は最高レベル

 インパクトの強い不具合報告の数々を見ると、「テスラ購入者は品質の低さに後悔しているのでは」と思ってしまいそうだが、決してそんなことはない。むしろ反対に、テスラユーザーの満足度は非常に高い傾向にあり、米国の消費者情報誌「コンシューマー・レポート」が各メーカーのユーザーを対象に行った満足度調査では、テスラが総合1位の座を獲得している。

 これは果たして、「未完成の製品を、一部の新しいもの好きが喜んで買っているだけ」なのだろうか。革新的な製品のファンを「信者」と揶揄する風潮は、iPhone黎明期にも見られたものである。

「劇的な変化を求めない国内ユーザー」の声を汲み取り、携帯電話メーカーは、スマホ開発において世界から遅れをとる結果となった。自動車産業においてはどうであろうか。国内の基幹産業が、これまでの覇権を手放すことになれば、そのダメージは計り知れない。