戦後最大の経済事件“イトマン事件”を内部告発し、住友銀行の救世主となったバンカー、國重惇史氏。しかし、あることをきっかけに銀行を追われ、その後に務めた楽天副会長の座もスキャンダルで辞任。現在は家族を失い、地位も名誉も失い、家も失い、まともに一人で立つこともできないほどの体調不良にも見舞われ、赤坂のワンルームマンションでの暮らしを送っている。國重氏はいま何を思って生きているのだろうか。

 ここでは、ノンフィクション作家の児玉博氏の著書『堕ちたバンカー 國重惇史の告白』(小学館)を引用。國重氏とおよそ20年の付き合いを続ける著者だからこそ知ることのできた、「住友銀行の救世主」の現状を紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

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國重に残された“けもの道” 

 春から初夏に向かっていた。その日も赤坂に國重を訪ねた。部屋の乱雑ぶりは相変わらずだ。部屋にはやはり、微かな尿の臭いが漂う。國重はといえば、酷く汚れてはいたがお気に入りだった赤のダウンジャケットを脱ぎ、Tシャツ1枚のリラックスした姿になっていた。お決まりのように、部屋をざっと掃除して、國重の近況を聞く。

 元気に過ごしていたという國重は、やたらと「仮想通貨」に強い関心を持っていた。聞けば、政治家、二階俊博の周辺で「仮想通貨」市場に乗り出そうとしている人間たちに会い、知恵を授けているとも話していた。

「ヘー、國重さん、仮想通貨の仕組みとか理解できているんですね。たいしたもんじゃないですか?」

 國重は筆者の言葉をバカにされたと思ったのか、ややムッとした表情になって、

「俺にだって仮想通貨ぐらいはわかるよ。元銀行家なんだよ、これでも」

 と口を尖らせた。

(※写真はイメージ)©️iStock.com

 そして、國重が最近、接触を繰り返している人間としてあげた名前は、1人は大手消費者金融に深く関与している人物であり、もう1人は何でもダボハゼのように利権にすることで有名な政治家だった。いかにも怪しげだった。

「國重さんは、こうした輩は好きですよね。銀行の時代から変わらないですよね」

「面白いからね。普通のサラリーマンとは違って……」

「やっぱ色々動いてるのは、カネなの? Mさん(國重の元妻)への(慰謝料の)支払いも大変だもんね」

 國重はその通りと言わんばかりに、小さく頷いていた。