文春オンライン

今やまともに一人で立つこともできず……“地位”も“名誉”も失った「住友銀行の救世主」はいま何を思うのか

『堕ちたバンカー 國重惇史の告白』より #2

2021/04/07
note

アルツハイマーを恐れていた最大の庇護者

 西川はどんなに忙殺されていても毎月25日の楽天証券の役員会には毎回顔を出し、その後、國重、三木谷とともに鰻を頬張るのを愉しみにしていた。それは、國重を守れなかったことへの西川の贖罪でもあったのだろうか。

 西川は間違いなく國重の最大の庇護者だった。國重の後ろには、三井住友銀行の西川がついている、これはある種、水戸黄門が掲げる葵の御紋が入った印籠と同じだった。

 それだからというわけではないが、西川の凋落と歩調を合わせるように國重も墜ちていった。

ADVERTISEMENT

 西川の庇護を受け続けた國重が、アルツハイマーとなり入院生活を続けている西川を気にかけるのは当然だった。

「西川さんはどうしてるのかな?」

 國重によれば、西川はいつの日か自分が認知症になるのではないかということを酷く気にかけていたという。

「西川さんは、自身の父親が認知症になっていたことと、親族にも認知症になった人がいたことから、もの凄く認知症になることを恐れていたんだよ」

「遺伝ってことですか?」

 國重はしかつめらしい表情で頷いてみせた。

「そう。西川さんは本当に怖がっていたんだ」

 西川は零落した國重の姿、境涯を知ることはなく東京都下の病院で余生を送っていた。

【前編を読む】「怪文書紛いが国会で取り上げられた」“イトマン事件”の告発で“住友銀行の救世主”になった男の告白

今やまともに一人で立つこともできず……“地位”も“名誉”も失った「住友銀行の救世主」はいま何を思うのか

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー