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10分後に鳴る「ピーンポーン」という味気ない電子音

 遣り手婆の存在、部屋持ちのシステムなど廓遊びの名残はここ飛田に残っている。しかし彼女と話していると、突然「ピーンポーン」と味気ない電子音が和室に響いた。何かと尋ねると、部屋を出なくてはいけない5分前だという。15分1万円のシステムの味気無さを思い知らされた瞬間だった。青春通りの店ではセックスが終われば、時間がこないうちに女が部屋を出て行ってしまうことがあったり、上着を脱がずに事に及ぶこともあるという。

 折角の古き良き建築物もこれでは台無しである。このような状態になっているのは、何もお店のせいばかりではなく、インスタントセックスを求める客たちの責任でもあるのだ。

「たまにお客さんみたいな人がいるんですよ。セックスはいいから、話だけしようっていう人が」

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 話を聞くことが仕事であるから、話だけで店を後にしたのだが、やはり男たちの中には、こうした場所で娼婦と話すことによって、癒される者も多いのだ。

©八木澤高明

そして「青線」跡には……

 飛田新地を出て、かつて青線があったという周囲を歩いてみることにした。昼間でも薄暗いアーケードがあり、商店が並んでいる。ところどころ、スナックがあって、どことなく青線だった頃の雰囲気を残しているが、飛田新地の存在感の前にかすんでしまっている。全国では赤線が消え、青線跡に淫靡な空気が漂っている町が多いが、ここではまったく逆だった。

 赤線跡がここまで売春街として健在な町は、ここをおいてないのではないか。この風情もいつまで残ることができるのか。いっそのこと、この景色を残すため売春を合法化してもいいのではと思ってしまうほどだった。もしかしたら、それ以外に飛田が売春の町として生き残る方法はないのかもしれないと思った。

【#2「山形・神町」を読む】

青線 売春の記憶を刻む旅 (集英社文庫)

八木澤 高明

集英社

2018年10月19日 発売

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