村山 解説にも書いてくれているけれど、辻村さんが週刊文春の連載時から『ミルク・アンド・ハニー』を読んでくださっていて、1回読み逃した時にはわざわざ編集者に連絡してコピーを取り寄せてまで……というエピソードも、実は私、ひそかに漏れ聞いてたんです。
連載中はとにかく不安で、何せフィクションと私小説の狭間にあるような小説だし、私以外にこれを面白いと思って読んでくれる人がいるんだろうかと思いながら書いていたので、辻村さんがそこまで熱心に読んでくれてると聞いて、すっごく励みになったんですよ。
辻村 文春が出るたび真っ先に読んでいた連載だったから、うっかり1号とばしてしまった時は愕然としました。あわてて近所の書店に駆け込んでもバックナンバーを置いてないし、これはもうアマゾンで注文するか、それともコピーを送ってもらうか、真剣に迷ったんですよ。
村山 アマゾンでひそかに取り寄せようと?
辻村 自分としてはこっそり追いかけてるつもりだったので。でも、つい編集者に頼んでしまい、話が広がったのか、しばらくたって別の編集さんから「村山さんに伝えたら喜んでましたよ」と言われ、「ああ、知られてしまった」と(笑)。
『ダブル・ファンタジー』の衝撃
辻村 私たち世代にとって、村山さんが『ダブル・ファンタジー』(2009年)で性愛の極致を描かれたことって、確実にひとつの事件だったんですよ。ある時期、同年代の作家が好きな本を紹介する企画があると、たいてい誰かが必ずこの作品に言及していました。
村山 うれしいです。以前、島本理生さんから、半年くらいずっと枕元に置いて読んでいたら、旦那さんに嫌がられたって話は聞いたかな(笑)。
辻村 まさに島本さん、西加奈子さんと雑誌で鼎談した時も、島本さんが『ダブル・ファンタジー』を持ってきていて、ページを開いて「ここのやり取りが」と口火を切ると、西さんが「この文章は」って入ってくる。前もって打ち合わせしたわけでもないのに、みんなまるで必須科目の教科書のように読み込んでいました(笑)。だから、続編の『ミルク・アンド・ハニー』の連載が週刊文春で始まった時は、本当にうれしかったんです。
それまで私、小説を連載で読むことなんてほとんどなかったんですけど、週刊誌連載という形で『ミルク・アンド・ハニー』を読めたこともすごくよくって。単行本と違ってどこで終わるか全くわからないから、毎週「この波を越えたら最終回じゃないか」とか「こんな衝撃的なことが起きたらもう先はないだろう」と思うのに、まだ続いて、それまで見たことのない景色を見せてくれる。恋愛小説なんだし、主人公の奈津が夫の大林と別れたところでさすがに終わるだろうと思ったら、その先にさらに深くて広い視野が広がっていて……。
村山 ありがとうございます。