『ダブル・ファンタジー』や『ミルク・アンド・ハニー』で性愛の極致を描いた村山由佳さん。そして、「村山由佳は私の青春」というほどに、村山さんの作品を高校生のころから愛読してきた辻村深月さん。直木賞受賞後の「危機感」や、作家の転換点など、ふたりの作家が創作への思いを徹底的に語り尽くしました。
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直木賞受賞後の迷い
辻村 私、村山さんに会ったらお聞きしようと思っていたことがあって。
村山 何? 何?
辻村 私、デビューして17年なんですけど、いま初めて後輩の作家が出てくる感じを味わってるんです。「学生時代に辻村さんの小説を読んでました」と言われることも増え、気づくと自分が先輩の立場になっているんだと思った時、自分より上の世代の作家さんは後輩の作家を意識することなんてあったのかなと。
村山 そりゃもう。私はデビューが小説すばる新人賞なんですけど、デビューして4~5年後まで、次に新人賞を取る人たちのことが気になってしょうがなかった時期がありましたよ。
辻村 へえ~、村山さんでも!
村山 私はたまたまデビュー作の『天使の卵』(1994年)が売れてくれて、とてもよいスタートを切ることができたんだけれども、同時に「誰かが自分の場所に座るかもしれない」という強い危機感があったんですね。数年たってようやく、作家の世界は椅子取りゲームじゃないということがわかってきた。消えるも消えないも自分の問題で、消えたくなければ自分で陣地を広げていくしかないんだと思えるようになって、少し楽になりました。
その次は、『星々の舟』(2003年)で直木賞をいただいて少したった頃でしょうか。デビュー直後とは全く違う意味で、うかうかしていられないぞ、と思うようになって。
辻村 直木賞の後なんですね。
村山 はい。直木賞を受賞してすごく楽になった部分もあるけど、いざもらってみると周囲にはもらった先輩たちがたくさんいるし、後輩もどんどん出てくるし、その中でどうやって生きのびていけばいいんだろうと。本も昔に比べて売れ行きが落ちてきて、さあどうしよう、ミステリーを書けば売れるだろうかとか。
辻村 村山さんがそんなことを?
村山 真剣に考えましたよ。恋愛小説でずっとやっていけるのかな、誰か人が死ぬような小説を書いたら売れるかな、なんて、しばらく悩ましかったけれど、『ダブル・ファンタジー』を書き、『ミルク・アンド・ハニー』を書けて、ちょっと楽になれたというか――「楽になる」のとは少し違うかな。周囲よりも自分の内側に目が向くようになったかもしれない。次に自分が獲得していかなくちゃいけないものは何だろうとか、挑戦しなきゃいけないものは何だろうとか、いまはそういう方に意識が向いていますね。