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「辻村さんは、絶対、性愛描写のポテンシャルがすごい」

村山 辻村さんは、身体感覚を言葉にする時、「これしかない」という表現をなさいますよね。たとえば「芹葉大学の夢と殺人」の中に、雄大くんから無理やり指を入れられた未玖が、気持ちよくもないのにいっぺんに絶頂に達せさせられる描写があります。あの身体が「ひりひり痛む」描写なんて、読んでいて、うわぁ、すごいと思った。

辻村 たぶん小説で初めて描いた本格的なセックスシーンです。

辻村深月さん 1980年生まれ。『鍵のない夢を見る』で直木賞、『かがみの孤城』で本屋大賞を受賞。映画『ドラえもん のび太の月面探査記』の脚本を担当した。

村山 登場人物のその瞬間の心情を映し出すような「痛み」の感覚を言葉にする時って、同じ感情にかられた時の自分の痛みをもういちど自分の体でもってよみがえらせないと、言葉に置き換えられないと思うんです。私自身の経験から言っても、これ、すごく疲労困憊する作業で、辻村さんの小説を読むと、「これは書いていて体力使うだろうな」とか「ぐったり疲れるんじゃないかな」と思う。でも、だからこその一文だよな、という描写がいくつもありました。

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辻村 「芹葉大学」は特に、普通の人が表に出さないこと、秘め事の部分の描写が多くて。セックスの行為の順序がどうとか、2人の間ではこのやり方が定型だとか、そういうシーンを書く時には、あいだに時間を置いたら体に入れた感覚が出て行っちゃうので、もう一気呵成でした。110枚くらいの中編ですけど、書き始めたら3日で、その3日間は本当に疲れ果てる感じだったと思います。

村山 やっぱりそうだよね。辻村さんは、絶対、性愛描写のポテンシャルがすごいと思う。

©文藝春秋

辻村 うれしい(笑)。村山さんにポテンシャルを感じてもらえた。

村山 性愛のシーンって、練習すれば誰でも書けるわけじゃなく、書ける人と書けない人がはっきり分かたれている気がするんです。辻村さんの小説には、まだまだ鉱脈が埋まっていますよ。

辻村 ああ、うれしい……。

村山 強烈なものを望みます。

辻村 私に書けるでしょうか?

村山 書ける。絶対に書けるし読みたいよ!

(初出:「オール讀物」2021年3・4月合併号)

オール讀物2021年5月号

 

文藝春秋

2021年4月22日 発売