一説に、日本人男性の約63%が仮性包茎とされている。多数派なのに「包茎=恥」とされるのはなぜなのか?
『日本の包茎』は江戸期の春本や医学書、医学論文、一般向けの性の指南書、青年誌や中高年向けの雑誌まで様々な文献を紐解きながら、日本でこの200年、包茎がどう語られ、どう扱われてきたのかをたどる。
澁谷さんは、なぜ包茎を研究しようと思ったのか。
「初体験の時、こちらが聞いてもいないのに、相手が『男の7割は包茎だから』と言ってサッと股間を隠したんです。のちに童貞について研究する過程で、童貞と一緒に包茎もひどくバカにされていることを知りました。特に仮性包茎は多数派で、医学的に病気ではないとされているのに、なぜか美容整形外科は『手術で治せ』と喧伝する。この状況を疑問に思い、包茎について調べ始めました」
澁谷さんは男性のセクシュアリティの歴史を専門に研究活動を行っている。前著『日本の童貞』では、明治から平成の日本社会における童貞をめぐる価値観の変化を丹念に追いかけた。
「男性のセクシュアリティに関心を持ったのは、中学1年生のある朝に目撃した光景がきっかけでした。同じ電車に乗り合わせたサラリーマンが、際どいグラビアが大写しのスポーツ新聞や雑誌を広げて読んでいたのです。エロい新聞雑誌を公衆の面前で堂々と読む男たちがいて、それを許容する環境がある。そんな事態を成立可能にする社会の在り方って何なのか。いま振り返ると、これが男性のセクシュアリティに関心を持つに至った原体験だと思います」