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辛らつな言葉で女性たちが包茎を罵倒していたあの頃

 本書によれば戦前から包茎を恥ずかしがる感覚は存在したが、包茎への風当たりが強くなったのは70年代以降。包茎商売に手を染めた美容整形外科とメディアの罪が大きいという。

「80~90年代の青年誌には、辛らつな言葉で女性たちが包茎を罵倒し、美容整形医が手術を勧める記事が溢れていました。しかし、それらの記事は、クリニックが女性に包茎批判を『言わせた』うえ、ページを買い取って掲載したものであることが明らかになっています。普通の記事のようでいて、実はクリニックの広告というわけです。依頼をした医師も、掲載を決定した編集部のスタッフもほぼ全員が男性。つまり、商売のために〈女の意見〉を使いながら男性が男性を貶(おとし)めていたことになります。このようなトリックに気付かぬ男性は“包茎を嫌っている”とされた女性に敵愾(てきがい)心を抱くことになり、それが女性への加害に繋がらないとも限りません。女性を巻き込みながら展開する男性間差別の構造――これをいかにして解体すべきか、本書をきっかけに考えてもらえればと思います」

澁谷知美さん

 性教育の面でも課題があるという。

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「子供の包茎に関しては、親が包皮をむく/むかないで議論が真っ二つに分かれています。そのため母親は子供をどのようにケアすべきか分からず、つらい状況に置かれている。小児科医には早く統一見解を出してほしいところですが、残念ながら、数十年間この議論は停滞しています。医師ですら、男性身体について積極的に研究し、情報発信することに抵抗があるのかもしれません。

 一方、男性器についての知識を伝える際は“正しい形”を前提にせず、色々な大きさや形があると教えるのが筋だと思います。科学的/医学的見地に立てば、童貞喪失の時期や性器の形に絶対的な“正しさ”などないはずですから」

しぶやともみ/1972年、大阪市生まれ。東京大学大学院教育学研究科で教育社会学を専攻。現在、東京経済大学全学共通教育センター准教授。ジェンダー及び男性のセクシュアリティの歴史を研究している。著書に『日本の童貞』『平成オトコ塾』など。

日本の包茎 ――男の体の200年史 (筑摩選書)

澁谷 知美

筑摩書房

2021年2月17日 発売

日本の童貞 (文春新書)

渋谷 知美

文藝春秋

2003年5月21日 発売