会社を変えたい。でも、投資はできない
当時のMTVは、世間にまったく認知されていませんでした。まずはMTVのプレゼンスを上げないといけない。そのためには「起爆剤」が必要でした。
ぼくが考えた起爆剤とは「MTV ビデオ・ミュージック・アワード」を日本に持ってくること。これはもともとアメリカのMTVが主宰する世界最大の賞です。それを日本でも立ち上げようと考えたのです。
ただし、それにはお金がかかります。でも会社としては、収益も売上も両方上げないといけません。投資をすると売上は伸びますが、収益は悪化します。収益を下げずに、インパクトがあることをしないといけない。そこで「とにかくスポンサーさんに頼るしかない」と思ったわけです。
社内外からの反発をうけた編成の大転換
しかし、日本のスポンサー企業のほとんどは、MTVに関心を持ってくれていませんでした。というのも、当時の日本のマーケットは、洋楽が2割で邦楽が8割ぐらいでした。それなのに当時のMTVジャパンは、洋楽しか流していなかった。しかも視聴率がどのぐらいとれているかというのも、まったく意識されていませんでした。「好きな人だけ観ていればいい」という雰囲気だったわけです。
そこでぼくは「視聴者が増えてスポンサーがつくように、編成を変えよう」と言いました。スポンサーを集めるために、これまで洋楽しか流さなかったチャンネルで邦楽を流す。それはものすごい戦いでした。ブランドのカルチャーをも変えてしまうぐらいの、大きな決断です。
もし当時ツイッターがあったら、ぼくはボコボコに叩かれていたでしょう。「MTVのことをわかってない。なんで邦楽流してんだよ」と。「2ちゃんねる」はすでにあったので、そこではけっこうひどいことを書かれていたのを覚えています。
「感性」ではなく「数字」で判断する
当然、社員からも反発されました。それでも社員についてきてもらうために、ぼくが気をつけていたのは「感性で判断しない」ということです。
ぼくはある意味、ズブの素人です。別に音楽業界にいた人間でもない。自分のことをセンスのある人間だとは全く思いません。でも、経営陣として「数字」を見ることはできます。だから絶対に感性では判断せずに、結果の数字で判断すると決めているんです。
ぼくは制作現場の社員に「選択肢は二つある」と言いました。