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 ひとつは、ガンガン洋楽をかけたりして、好きなものをやる。その代わり、視聴率がどれぐらい伸びるかの数字目標は約束すること。

 もうひとつは、スポンサーがつく番組をつくること。もちろん、決してMTVのブランドを傷つけてはいけないというのが前提です。「この二択で選んでくれ」といいました。

「そんなんじゃ、自分の思う芸術作品はつくれない」といって辞めていく人もけっこういました。でも結果的に、残った人たちの自由度はわりと高かったと思います。ぼくは制作のプロセスで細かく「こうしろ、ああしろ」と言うわけではなく「数字かスポンサー、どちらかの結果を残してくれ」と言うだけだったからです。

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 実際に、それからいろいろなクリエイティブが生まれました。そのひとつに、アニメテイストの作品がありました。ぼくはパッと見たときには、その作品のよさがぜんぜんわかりませんでした。でも、数字は出たんです。結果的にDVDでも販売しようということになって、けっこう売れました。もし数字ではなく感性で判断していたら、そういう作品も生まれなかったかもしれません。

数字にこだわるからこそ、クリエイティブが発揮される

 番組の根幹である編成を変えていく。反発が生まれることだからこそ、きちんと数字で指標を作ってあげるのは大切です。

 クリエイティブな仕事だと、カルチャーを重んじすぎて、数字やお金の話を毛嫌いする風潮があったりします。「お金のためにやっているんじゃないんだ」みたいなやりとりも、最初のうちはありました。

 でもきちんと数字を見て経営することで、結果的には給料も上がっていくし、予算もついて、やりたい番組ができていきました。彼らの制作者としてのプライドも一旦は崩されたかもしれませんが、その後はちゃんと尊重することができていたのではないかと思います。

「ビデオ・ミュージック・アワード」はその後、MTVジャパンの看板番組になりました。マイケル・ジャクソンに出演していただいたときの映像は、いまだに特集番組で使われていたりします。毎年ものすごく大きな文化祭をやるような感じで、準備は大変なのですが、その分やり切ったときの満足感も大きかったです。

 MTVに入社して、最初はリストラもしないといけないし、すごく苦しかった。でも「あのときシャベルを投げずに、掘り続けてよかった」といまは思っています。

構成=竹村俊助 @tshun423
写真=佐藤亘/文藝春秋