本社と社員との板挟み…ストレスで神経痛に
ぼくは当時35歳くらいだったので、社内には年上の方もけっこういました。外部からきた若造が、いきなりリストラしないといけない状況です。
なかには「逆の立場になってみるといいですよ」という捨て台詞で出ていく人もいました。ぼくはもう心身ともに限界。買収したとき200人弱いた社員は、最終的に半分ぐらいになりました。
社員だけでなく、本社とのやりとりも大変でした。当時のMTVジャパンには、パートナーが2社いました。1社はMTV本社、もう1社はファンドです。
ファンドは支援した会社の市場価値を上げて売却したいので「なんでもいいから、とにかく収益を上げていこう」というマインドが強いんです。「売上は毎月あげろ。利益も出せ。こんな成長率じゃ、株価は上がらないぞ」と、つねに発破をかけられていました。
そんななかで、人はどんどん減らさないといけません。辞めてもらう人たちとの面談もしないといけない。本社と社員との板挟みの状態。ストレスで身体中がひどい神経痛になってしまいました。「もう無理だ。いますぐにでも辞めたい」と思っていました。
「お前はここでシャベルを投げるのか?」
そんななか、リクルートの先輩に相談しました。
ぼくが開口一番「辞めたいんです」と言うと、先輩は「おまえは今、砂漠を歩いているんだ」と言うのです。「砂漠にいて、蜃気楼も見えているかもしれない。つらい気持ちはわかる。でもいまは、砂を掘って、水脈を掘り出そうとしているタイミングだと思う。あともう一掘りしたら出てくるかもしれないのに、おまえはここでシャベルを投げるのか?」と。
いまだったら「そんな先の見えないこと、やってられるか」と思うかもしれません。でも当時まだ若かったぼくは、その先輩の言葉を真に受けて「そうか。もっと掘ろう」と思いました。
すると、本当に「水脈」があらわれてきたのです。