澤田 信長の面白いところって、あの時代を書こうと思ったら、天皇家、諸大名、文化や築城など、何を書こうと思っても信長を通らざるをえないところで。
天野 でも信長を書くときって、めちゃくちゃプレッシャーがかかる……。
木下 天野さんがここにいる誰よりも信長を書いてるじゃないですか(笑)。
谷津 イメージが付きすぎちゃっているから、そのイメージを守りつつ、独自性を出すのが難しい気がします。研究が進んでだいぶ人物像が明らかになってきたところもありますし。
武川 最近の研究だと、歴史学者の金子拓、柴裕之両先生らが、従来からイメージされるエキセントリックな信長ではなく、幕臣として室町幕府を再興しようとしていた保守的なところがあるんじゃないかという説を唱えていて、そういった学説が今後、歴史小説に反映されていくのかなと予想しています。大河ドラマの『麒麟がくる』を観ていても、真面目でナイーブな信長の部分が多く出ていて、フィクションの中の信長像というのも変わっていくのかなと。
木下 僕は先日、『信長 空白の百三十日』(文春新書)という新書を出したので、信長については相当分析しました。精神科医じゃないので、確実なことは言えませんが、信長は自己愛性パーソナリティ障害だったと考えています。要は、長く付き合えば付き合うほど信長から人が離れていくんですね。桶狭間の戦いのときに信長について行った配下も、その後ほとんど皆愛想を尽かしている。信長の謎って色々あるけど、最終的には彼の性格に行きつくんじゃないかな。
天野 僕も『信長 暁の魔王』(集英社文庫)を書いた際、精神医学の本を参考にしました。母親との仲が悪かったというので、育児放棄とかそういう本を山ほど読みましたね。
今村 結局、色々な研究が進んでも、信長という人間はどこかミステリアスなところを持っていて、それが魅力であり、同時に一つの答えに当てはめるのが難しいのかもしれないですね。
実際に現地に行かなければ分からない!
――新型コロナウイルスという大きな出来事がありましたが、皆さんの執筆スタイルになにか変化はありましたか?
今村 あんまり変わらないんですけど、史料が手に入りにくい時期はありました。図書館が閉まったりして。
澤田 そうそう。困ったのは史料ですね。