木下 取材に行けないのは困りました。題材によりますけど、現地にしかないような史料もありますし、実際にそこに立たないと感じられない空気も大切だと思ってまして。
谷津 ありますね。行ってみたら、意外と寒かったとか。
今村 距離感とかも実際に行ってみないと分からへんよね。
谷津 そういえば、以前、福井に取材に行ったところ、その一週間後に武川さんも取材に訪れたとか。
武川 関東民なので、雪が降ってるときの福井の寒さを確かめたくて行ったんですけど、今年は全然雪が降ってなくて、困りました。
谷津 越前の雪って、どうも関東の人間がイメージする雪と違うみたいですね。めちゃくちゃ重いって聞いたことがあります。
今村 作家になる前、週に一回福井に仕事で行ってたけど、一メートルくらいすぐに積もるんですよ。ちなみに、武川さんが取材に行った、一週間後、僕も福井に取材に行ったんです。
天野 もしかして、書こうとしている題材がかぶった?
武川 それが微妙にかぶってなくて、安心しました。
澤田 ネタがかぶるのは怖いですよね。
天野 そうなんですよ。長崎に取材に行ったら、取材先に川越さんのサインがあったときは、「しまった」と思いましたよ(笑)。
今村 長崎のどこに行ったんですか?
天野 後に台湾に渡り、鄭氏政権の祖となった、鄭成功の生家です。母親が日本人なんですよね。
今村 あ、そのあたりを書くんですね。これからの歴史小説って、世界の中の日本を描くか、日本の中の狭いところにぐっと寄るかの二択が主流になるんじゃないかと思っていて、僕の場合は引いた作品を多く執筆したいと思ってる。世界の中の日本を描く物語をいっぱい作っていきたいですね。
天野 うん。僕も引いたところから日本を見る方向に行ってるかな。
今村 川越さんも引いて見る派でしょ? いままでも日本の外を描くことが多いし。
川越 漂流してる人をよく書いている気がします。「ここじゃないな」ってずっと思っている人に興味があるんだと思う。
武川 私は逆に寄る派なんですよ。ミクロのミクロに行きたい。地方の領主とか、戦で負けちゃった人が好きなんでしょうね。以前、新発田重家を短篇で書いたことがありますが、もうちょっとで上杉家を潰せたかもしれないくらいの感じがすごく良くて。
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※この大座談会に参加した7名の歴史作家が勧める、(1)初心者にお勧めの短篇、(2)ビジネスに役立つ歴史小説、(3)自身が偏愛してきた作品について、文庫を中心に販売する歴史時代小説フェアが、紀伊國屋書店小田急町田店、吉祥寺店、国分寺店などで開催中です(緊急事態宣言中は休業)。
初出:オール讀物2020年12月号
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