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小さな事実に大きなウソ

 陰謀論の厄介なところは、部分的には事実を含んでいるものが多いことだ。しかし、それら小さな事実たちを飛躍した論理で結び付けることで、都合の良い、刺激的なストーリーを紡ぎだしていく。増山氏はこうも書いている。

小児性愛犯罪が存在すること自体は、事実なのだ。その事実の断片の集積が、陰謀論までもが事実なのだと私に思い込ませるようになっていった。

出典:アメリカ大統領選の「陰謀論」にハマってしまった私~やらかした当事者が振り返る~

  2019年にも「女児がショッピングセンターのトイレで暴行を受け子宮全摘した」という真偽不明のツイートが拡散されたことがあったが、それをリベラルな主張で知られる女性が海外の事例を引き合いにして積極的に拡散していた。

 児童への性的暴行が世界に存在することは事実だが、真偽不明なのに公共の場であったとするのは大きな飛躍がある。Qアノンが児童への性的虐待を過度に一般化する姿勢に通じている。

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陰謀論は人間の倫理観・正義感を刺激する

 政治的思想の左右を問わず、児童への性的虐待、政治不正といった悪事を肯定する人は少ないだろう。陰謀論やフェイクは「悪者に支配されている」、「悪事が行われている」、「悪事が正された」といった、人間の倫理観・正義感を刺激するものが少なくなく、誰しも引っかかる可能性を秘めている。

 本稿で取り上げた陰謀論もこの類型に過ぎず、新しい陰謀論は最新の事件や話題を取り入れ常に生み出されている。最近では、スエズ運河をコンテナ船が塞いだ事件に関連して、「このコンテナ船は人身売買された児童を輸送しており船会社は偽天皇家の……」といった陰謀論が流布されていたが、隠された悪事が露見し正義の鉄槌が下るという構図はまんま同じである。

 増山氏のように陰謀論から抜け出して自省できるなら、それに越したことはない。しかし、それは難しいのが現実だろう。大量の情報が溢れている現在、フェイクや陰謀論に引っかからないでいるのは難しい。それでいて、ブログの時代なら拡散するにもコピペといった手間が必要だったのに対し、SNS時代は数秒で拡散可能だ。まさしく今は、陰謀論に有利な時代になっているのかもしれない。