このように去年の段階では、日本各地で囚われている子供たちを救出するために富士の演習場で訓練しているという主張だったが、今年2月4日以降、北富士演習場で海兵隊の訓練にともなうとみられる火災が頻発すると、こともあろうか米軍が訓練していた足元の演習場地下に富士フイルムのアドレノクロム工場があるという設定に変化する。火災は米軍の攻撃によるものという理屈だ。訓練した場所が敵の本拠地の真上だったとはマヌケな話もいいとこだが、そういう点を気にしている人は確認できなかった。
特徴的な誤字・誤認も引き継がれ拡散
この説を信じる人は火災を「普通じゃない」と主張するが、冬の演習場は乾燥した空気、可燃物の枯れ草、そして火元になる弾薬、と火災が起こりやすい条件が揃っている。実際に過去何回も火災が起きている。筆者も、陸上自衛隊の第1空挺団の訓練始めの最中に火災が発生し、演習場が炎上する中で訓練が続けられたのを目撃している。
これらの陰謀論は一度SNSやブログで主張されると、次々と陰謀論系のブログに転載され、話に尾ひれが付いて変化していく。コピペで伝わっていく関係上、「デルタホース」(米陸軍特殊部隊のデルタフォースのことと思われる)、「海兵隊シールズー」(米海軍特殊部隊シールズのことと思われるが、海兵隊ではなく海軍所属である)といった特徴的な誤字・誤認も引き継がれており、こうした誤字に溢れていることから陰謀論の出元自体は少数であることが窺える。つまり、少数の扇動者に多数の拡散者がいるという構図だ。
政治思想を問わない陰謀論
一般的に右派の陰謀論であると解説されるQアノンであるが、筆者は政治思想の左右を問わず浸透すると考えている。自民党の斉藤県議の例を挙げたが、野党でも例がある。アーティスト・反戦活動家で2016年の参議院議員選挙では社民党公認で立候補した増山麗奈氏は一時期Qアノンにハマっていたことを告白し、自省的に振り返った記事を公開している(なお、前述の海兵隊のツイートにもQアノンにハマっていた当時の増山氏が反応していたのが確認できる)。増山氏は次のように振り返っている。
「Qアノン」と呼ばれる陰謀論グループは「長年世界を支配してきた小児性愛・人身売買組織を退治するヒーロー」としてトランプ氏を祀り上げてきた。トランプ氏が再選すれば「ディープステートや、世界にフェイクニュースを流していたマスコミが一掃される」という主張はサスペンス映画のように刺激的で、私もそれにハマってしまった者の1人だ。
SNSでも刺激的なもの、面白い情報ほど拡散される。「不正選挙の証拠であるサーバーを巡って、ドイツで米軍特殊部隊とCIAが銃撃戦」、「米国国境に25万人の中国人民解放軍が集結」、「バチカンから3垓5000京円分の金塊押収」。これらは昨年末以降、日本のSNSで拡散された真偽不明の情報である。一見して荒唐無稽であっても、サスペンス性と「マスコミが伝えない」ことを知る優越感を満たすという点では優れている。一言で表せば「面白い」。