『金八先生』出演の女優・三木弘子さんの指導に感銘を受けた
『音読教室』の中で堀井さんが繰り返し訴えているのは、テクニックと同時に、自分なりの解釈を持ってストーリーを伝えることだ。『ごんぎつね』の「ご」になぜこだわるのか。それは、自分が『ごんぎつね』で感じた世界観を端的に提示する第一声になるからだ。
「私がレッスンを受けた方で指導に感銘をうけたのは、『金八先生』の事務員役で知られる女優の三木弘子さん。三木さんは登場人物の言動や風景描写について都度、『なぜそうなのか』を説明させました。『源氏物語』なら、なぜここで桜がひらひらと舞っているのか。源氏はなぜ一歩を踏み出したのか。三木さんのもとで人の心の動きを説明する特訓をしたおかげで、考える癖がついたんです。きれいに読むのではなく、中身を考えなければ聴かせる朗読にはならないのだと教わりました。あまりに私がしつこくレッスンをお願いしたので三木さんには、『ねえ、あなたに教えて私に何の得があるの?』と言われていました(笑)。面白い方でもあるんです」
さらに、音読をすることでコミュニケーションが円滑にいく側面もあると言う。
「基本として、まず音読をすると口が動きます。使わない筋肉を急に動かすと身体を痛めてしまうように、普段からストレッチをしてメンテナンスをしておかないと、いざという時に発言できないもの。うまく喋れないとそれがストレスになり、言いたいことを遠慮してしまったり、タイミングを逃してしまったりします。自分の意図を十分に伝えられないまま会話が進行してしまうこともあるでしょう。そういった意味で、音読で常に口を動かしておくことがコミュニケーションにも役立つと思っています。
それに、あらかじめ決まった文章を読む音読なら、恥ずかしさもないですよね。簡単でお金も道具もいらず、正解もない。感情を表現するのにとてもいい方法だと思いますね」
“女子アナブーム”最盛期に入社…「ナレーション」は期待されたキャリアではなかった
今でもTBSのアナウンサールームには、新人時代の堀井さんが書いた「朗読ナレーション道を行く」という記事が貼られている。初志貫徹している堀井さんだが、入社した1995年は“女子アナブーム”の最盛期。どの局も女性アナウンサーを画面で売り出すことに必死で、顔の出ないナレーションの道は、堀井さんに期待されているキャリアとは言い難いものだった。
「小さいときからたくさん音読をしてきたものですから、入社当初から自然と“読みのエキスパート”になりたいと思っていました。でも周りに相談すると、『あんまりナレーションナレーション言わない方がいいよ』とアドバイスされたこともあります(笑)。『ゴールデンの番組に出たいです!』と言っていればプロデューサーから声がかかるかもしれないけど、『ナレーションやりたい!』ではなかなか難しい。あまり口外しないほうがいいよ、ということだったようです。ただそれは25年前の話で、今は後輩たちがみんなナレーションをやりたい! と言ってくれているので嬉しいですね」