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中古バスで作った書斎、築60年洞窟付きのアトリエ…“足し算の発想”で生まれた「ナゾの間取り」

中古バスで作った書斎、築60年洞窟付きのアトリエ…“足し算の発想”で生まれた「ナゾの間取り」

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使う気マンマンの「洞窟付き賃貸」

 

 人類が最初に得た「住宅」は洞窟である。雨風をしのぎ、猛獣から身を隠すにあたり、洞窟は最適であった。天然の洞窟に住まうという営みはその後も長く続いて、イタリアの史跡「マテーラの洞窟住居」は世界遺産にも登録されている。

 ところかわって兵庫県神戸市で、2階建ての1階部分の借り主を募集した物件の間取り図がこちら。築年数は約60年で、浴室や台所がないため住まいには不適だ。外観から察するに、以前は何かの店舗だったようだが、人通りの多い地域ではないと見える。こういった理由からか、居室の表記は「アトリエ」となっている。

 やはり目をひくのは「洞窟」の存在である。間取り図ではなかなか見ない文言だ。もともとあった洞窟に横付けして建物を建てる際、それを利用できるようにしたものだろう。建物と洞窟が直結しているというのは、山がちな神戸の町ならではだ。

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六甲山から見下ろした神戸の街 ©iStock.com

 もうひとつ歴史の話をすると、ある時期の日本では、全国的に「洞窟」が乱造されていた。太平洋戦争中、空襲をしのぐために作った防空壕である。戦後は無用の長物となり埋め戻されたが、一部の防空壕は冷暗所として、ワインセラーなどに利用された。

 この物件の「洞窟」につき、詳細な経緯は不明だが、どうも防空壕の跡である可能性が高そうだ。間取り図にもわざわざ書き入れているあたり、21世紀になっても「洞窟」を利用しようという意気込みが伝わってくる。

 洞窟はふつう登記しないということもあり、図面に記載されることは稀だが、築古物件を探っていると、「洞窟付き物件」に出くわすことがしばしばある。秘密基地のようで楽しげだけれど、防空壕が必要とされる時代はもう御免である。